「疎外感」の精神病理 第4回

引きこもりと疎外感

和田秀樹

ひきこもりという病理

 これまであれこれと現代日本人の疎外感について論じてきたわけですが、一般の人が疎外感ということでイメージするものに「ひきこもり」があるでしょう。

 ひきこもりという言葉が使われてから久しくなっています。

 もともとは1980年に発表されたアメリカ精神医学会の診断基準の第3版であるDSM-Ⅲに載ったSocial Withdrawal(社会的撤退)の訳語として使われたものだったのですが、現在ではHikikomoriがアメリカ版のWikipediaにもかなりの分量をさいた項目になるなど、日本人の病理として国際的に知られるものとなっています。

 昔からこの言葉は使われたようですが、現在のような意味で使われたのは平成期以降だとされています。

 仮にそうであっても、30年以上この言葉が使われていることになり、ひきこもりの高齢化が問題になっています。2019年に約20年間引きこもっていた犯行当時51歳の男性が川崎市登戸通り魔事件を起こし、小学生や保護者など20名が死傷しました。さらにこの事件に危惧を覚えた元農水省の事務次官が、大学院卒業後ひきこもりになり、さらに家庭内暴力をふるう44歳の子供を殺害した事件が起こり、中高年のひきこもり問題が一気にマスメディアを賑わわすようになりました。

 ひきこもりが長期化し、50歳になってもひきこもりの子を支える80歳の親という文脈で8050問題と呼ばれるようにもなりました。確かに80歳くらいまでは親がなんとかひきこもりの子供の面倒を見ることができるでしょうが、それを過ぎるとかなり困難にもなります。そして中高年までひきこもりの人は治らないと考えられているから家庭にとっては悲劇となるのでしょう。

 実際、ひきこもりの長期化、高年齢化はそれ以前から社会問題になっていました。2018年に内閣府は中高年層(40歳~64歳)を対象とする初めてのかなり大規模な調査を行い、中高年層におけるひきこもりの人は、推計で61万3000人に上り、15歳から39歳を対象にした調査(推計で54万1000人)より多くなっていることも明らかにしました。

 合計すると100万人を超え、またその半数以上が中高年のひきこもりであることから、まさに日本の社会病理とも言える問題です。

 厚生労働省はひきこもりについて、「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6カ月以上続けて自宅にひきこもっている状態」と定義しています。

 仕事や学校のように行くべきところにいかず、家族以外とは交流をもたないことと、それが6カ月以上あるということが重要なポイントだということです。

 確かにこのような状態は、かなり異常なことと言えるでしょうし、それが人口の1%もいて、しかも中高年になっても改善しないということであれば、多くの子をもつ親御さんを不安にするのは確かでしょう。

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 第3回
「疎外感」の精神病理

コロナ孤独、つながり願望、スクールカースト、引きこもり、8050問題……「疎外感」が原因で生じる、さまざまな日本の病理を論じる!

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プロフィール

和田秀樹

1960年大阪府生まれ。和田秀樹こころと体のクリニック院長。1985年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローなどを経て、現職。主な著書に『受験学力』『70歳が老化の分かれ道』『80歳の壁』『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』『70歳からの老けない生き方』『40歳から一気に老化する人、しない人』など多数。

 

 

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