韓国カルチャー 隣人の素顔と現在 第1回

またしても世界的な大ヒット、ドラマ『今、私たちの学校は…』

しかし韓国国内の評価は分かれる。そしてホラーは苦手な人への特別解説
伊東順子

韓国と日本の教育制度の違い、部活動も大学入試のため 

 

 世界中でヒットしたという本作だが、日本でもやはり長らくネットフリックスのランキング1位にあった。冒頭にも書いたように、制服や教室の配置、あるいは学校の隠蔽体質など、ドラマを見ながら日本との類似点を感じた人は多いと思う。

 ただし似ていながらも大きく違う部分もあり、代表的なのは受験制度と部活動だと思う。その象徴となるのが、韓国における「高校3年生は特別な存在」という意識である。

 日本でも受験生は大変なのだが、「高校3年生」の重みは随分違う。ドラマ『今、私たちの学校は』は高校2年生が中心だが、別グループでサバイバルをする高校3年生の台詞の端々からは、彼ら特有のシビアな状況が出てくる。

 「高3のつらさに比べたら、こんなもの……」

 ゾンビとの攻防戦の中でのこんな台詞が飛び出すことに驚いたという日本の人がいたので、たまたまドラマを見たという日本の高校3年生にも、それについて聞いてみた。

 「日本でも大学受験は大変だと思うけど、『高校3年生がつらい』という現にはならないような。受験生がつらいのはもちろんですが」

 日本では高校3年生全員が受験するわけではないし、今回の新型コロナ禍の事態でも高校生たちが嘆いたのは文化祭や体育祭などの「楽しみ」や「思い出」が失われたことだった。 韓国の場合は感染対策でオンライン授業が中心となった時も、高校3年生だけが優先的に対面授業となった。受験生だからという理由だ。

 韓国の高校3年生が大変なのは、そこに受験の全てが集中するからだ。「高校標準化」によって高校受験が実質的になくなり、また私立の小中学校なども学力試験での選抜は原則廃止されている。日本だと大学受験に至るまでに、何度かの「ふるい分け」が存在するのだが、韓国ではそれがないために、大学受験が人生初の大勝負となってしまう。良くも悪くも日本の場合は、高校進学の時点で一定の進路は決まってしまうのだが、韓国の場合はそこの区切りがない。

 

 また部活動についての位置づけも、日本と韓国では大きく異なる。韓国で部活動は一般的ではなく、一部のスポーツエリートに限られたものだ。たとえば韓国でプロ野球は人気があるのだが、それに比べると高校野球は全く注目されない。日本では野球部のない高校を探すのが大変なほどだが、韓国では野球部のある高校が全国で80校ほどにすぎない。まるで「いきなり甲子園」のような状況なのだが、野球部に入る高校生はもれなくプロを目指している。ただし、当たり前だがプロ入りできるのは上位10%にすぎず、途中でそれを諦めた生徒は「スポーツによる大学進学」を目指す。

 ドラマ『今、私たちの学校は…』では、アーチェリー部の生徒が登場している。韓国はアーチェリーの強豪国であり、オリンピックのたびに金メダルが話題になる。ドラマにアーチェリー部が選ばれたのは、それでゾンビで戦うためであり、韓国映画ファンならば、思わず『グエムル-漢江の怪物-』のペ・ドゥナの勇姿を思い出す人もいるだろう。

 第二話では、アーチェリー部が大会で惨敗した後のバスの中で、コーチから「大学にも実業団にも入れない」と恫喝されているシーンがある。

「勉強で全国100位ならソウル大に行ける。だがお前らの100位はオリンピックを夢見ることすら許されない。人生おしまいなんだよ」

 失意の中で、高校3年生はゾンビと戦うのである。

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プロフィール

伊東順子
ライター、編集・翻訳業。愛知県生まれ。1990年に渡韓。ソウルで企画・翻訳オフィスを運営。2017年に同人雑誌『中くらいの友だち――韓くに手帖』」(皓星社)を創刊。著書に『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)等。『韓国カルチャー 隣人の素顔と現在』『続・韓国カルチャー 描かれた「歴史」と社会の変化』(集英社新書)好評発売中。
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