古谷 うれしいですねえ、そのセレクトの基準は。でも、何が少年の心の琴線に触れたんだろう(笑)。
やく 互角……がポイントかも知れません。
古谷 というのは?
やく どちらかが圧倒的に強い、弱いではなく、お互いに技の応酬が互角、まさにギリギリの攻防、どちらかがひとつミスをしただけで、展開がガラッと変ってしまうのではないかといったハラハラ感。しかも、両者ともスピードがある。スピードに乗った技を繰り出している。例えば、ウルトラマンのハイキックのスピードなんて、格闘技素人の私ですら思わず“おおお”と唸ってしまうほどの説得力があります。
古谷 いやいや、そんな。
やく その勝敗がどちらに転んでもおかしくない、手に汗握る互角のハイスパートの戦いが少年たちの心をつかんだのでしょう。ホント、好きですから、男の子はこういう戦いが。というか、強く憧れるんですよ、このような息を呑む戦いに。
古谷 ああ、なるほど。互角だったのはケロニアの造形もポイントだったかも知れませんね。
ホシノ いわゆる人型?
古谷 そうそう。重くないんですよ、人型だと。普通に組んで投げることができる。これが重たい四足の怪獣になると、そうはいかない。持ち上げるにしても、ピアノ線で吊らなければいけなくなる。
ホシノ そういった重量感ある戦いも魅力的なんですけどね。
古谷 そうそう。ただ、中に入っている僕からすると、やっぱり人型怪獣との戦いのほうがラク(笑)。それはたぶん、怪獣もそう感じていたはずで(笑)。僕は相手が軽い分、思いっきり投げることができた。同様にケロニアも全力で僕を投げることができた。そういう全力の出し合いが、やくさんの指摘した互角の凄みを演出し、少年たちの琴線に触れるハイスパートな戦いに繋がったのだと思いますね。
それから、もうひとつ忘れてはいけないのは、ケロニアのスーツアクターだった扇幸二さん。彼の受け身は素晴らしかった。あの受け身の数々は芸術的ですらありましたよね。投げられ方? やられ方とでもいえばよいのかな、とにかく技を出したこちらの気持ちがスカッとするくらいにバーンッと吹っ飛んでくれて。なにか自分はもっと動けるんじゃないか、もう少しハードに攻めることができるのではないかと錯覚してしまうくらい、派手に吹っ飛んでくれましたね。
ホシノ 以前に、プロレスラーの“超獣”ブルーザー・ブロディにインタビューしたことがあるんですね。
古谷 名前は聞いたことがあります。
ホシノ めちゃめちゃ強かったレスラーなんですよ。悪役レスラーなのに、その破天荒な強さで絶大な人気を誇っていました。ブロディはいわゆる一匹狼で、どの団体にも束縛されず、全米各地のリングで活躍、どのリングでも地元の観客の支持をバックにメインの試合を務めていて。そんなブロディに「これまでに最高の試合は誰との戦いでしたか?」と問うと、彼は「誰との戦いではない。対戦相手が受け身に優れていること。それが最高の試合に昇華させる絶対条件だ」と言ったんです。
古谷 ほう、そうですか、はいはい。
ホシノ 続けてブロディは「なぜなら、相手の受け身がヘタだと、私の技がきれいに映えない。痛さも客席の奥まで伝わらない。それが最高の受け身をしてくれる対戦相手の場合、私の前蹴り一発で会場が一瞬にして熱狂する。なにせ私が気持ちよくなるくらいに豪快に吹っ飛んでくれるのだから。受け身の名人になると、前蹴りを食らっただけでロープを越えて場外まで吹っ飛んでくれる。そんな名人が対戦相手だと、自分はいま、キングコングのように強いと思えてくる。そうなると、私は自然に“バーニング・ゾーン”へと突入できたんだ」と言っていたんですよね。
古谷 “バーニング・ゾーン”?
やく アスリートが極限の集中力を発揮したときに「ゾーン」という言葉を使ったりしますね。それのことかな?
ホシノ はい、そうです。ブロディは「ゾーン」は「ゾーン」でも、自分の場合は“バーニング・ゾーン”だと言っていて、「突入したとたん、自分の筋肉がフル活動しはじめるのがわかる。たぶん、いつもより5㌢は高くジャンプできたと思う。相手の動きも冷静に読めて、自分の最善の動きが、考えなくても勝手に体が表現してくれる。思った以上に足が上がり、普段よりもエゲつないキックを無意識のうちに相手の顔面にぶち込むことができる。その一発で、また会場は大熱狂し、誰もが私の名前を呼び続けるのだよ」と胸を張って答えていました。
古谷 当時、その“バーニング・ゾーン”に僕が突入できていたかどうかわかりませんけど、ケロニア戦はそれに近い境地だったのかも知れませんね。そう考えると、やくさんが指摘していたケロニア戦における私の動きがキレッキレッだったことも納得でき、繋がっていく話です。
ホシノ これはしつこくブロディが言っていたことなんですが、その“バーニング・ゾーン”に入れるかどうかは相手次第。自分ひとりの力では突入できないらしいです。そういう意味でも、古谷さんがおっしゃっていたように、扇幸二さんの受け身の秀逸さは、もっと高く評価されるべきでしょうね。
古谷 そう思います。
ホシノ 扇幸二さんは、まさにスーツアクター界のリック・フレアーとでも言えばよいのかも。
古谷・やく ?
ホシノ プロレスファンにしか伝わらない例えだったですね。元NWA世界王者、リック・フレアーは受け身の天才でして、自らコーナーポストに駆け上がっても、必ず相手に捕まり、豪快にデッドリードライブで投げられてしまう。その投げられっぷりの良さは世界遺産みたいなもんでした……すみません、わけのわからない話になってしまいまして…。
古谷・やく (笑)。
プロフィール
古谷敏(ふるや さとし)
1943年、東京生まれ。俳優。1966年に『ウルトラQ』のケムール人に抜擢され、そのスタイルが評判を呼びウルトラマンのスーツアクターに。1967年には「顔の見れる役」として『ウルトラセブン』でウルトラ警備隊のアマギ隊員を好演。その後、株式会社ビンプロモーションを設立し、イベント運営に携わる。著書に『ウルトラマンになった男』(小学館)がある。
やくみつる(やくみつる)
1959年、東京生まれ。漫画家、好角家、日本昆虫協会副会長、珍品コレクターであり漢字博士。テレビのクイズ番組の回答者、ワイドショーのコメンテーターやエッセイストとしても活躍中。4コマ漫画の大家とも呼ばれ、その作品数の膨大さは本人も確認できず。「ユーキャン新語・流行語大賞」選考委員。小学生の頃にテレビで見て以来の筋金入りのウルトラマンファン。