韓国ドラマ・映画と北朝鮮――映画『南部軍』(1990)からドラマ『愛の不時着』(2019)まで (1)
1.元旦早々の嬉しい話
悲報が多い昨今、新年早々の吉報に思わず「わぉ」と叫んでしまった。
「愛の不時着」恋人役の二人“恋に落ちる”
日本でも大人気となった韓国ドラマ「愛の不時着」で、恋人役で共演した俳優のヒョンビンさんとソン・イェジンさんが交際中であることが明らかになりました。
1日、ヒョンビンさんとソン・イェジンさん双方の所属事務所は2人の交際を認め、マスコミ宛てに発表しました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/7cbc13029184b119a5bab02503c0712679d13245
ツイッターで「これは、すごい!」とつぶやいたら、さっそく韓国人の友人がリプライをくれた。そこにあったリンク先はソン・イェジンのインスタ。さっそくアプリを開いて覗いてみたら、もうとろけそうな文面で愛が綴られていた。
개인적인 이야기로 여러분 앞에 서려니 왜 이토록 부끄러운걸까요..
흐음…음…으음..
네 그렇게 됐습니다..^.^
하하…
음…^^;;
https://www.instagram.com/p/CJfmMXUnxbn/?igshid=qx9kuwd8r2x
「自分のことになると、なんでこんなに恥ずかしいのか…」
アラフォーの大女優がなんと初々しい。それはまるでドラマ『愛の不時着』の中のユン・セリが語っているようで、思わずこちらまでニコニコ顔になってしまう。韓国の人々にとってもコロナで厳しい日々に嬉しいニュースだったようだ。インスタもツイッターも祝福の声がならぶ。ファンだけでなく、多くの国民が喜んでいるのだろう。私にインスタを見ろと教えてくれた男性も普段は政治外交の研究をしている学者さん、そんな彼にとってもワクワクするニュースであるようだ。
もちろん関心のない人もいる。日本人が思っているほど『愛の不時着』は韓国ではヒットしておらず、さらに芸能界の出来事に関心がない人はどこに国にもいる。ただ、「ドラマは見なかったけど、二人は結婚すればいい」という女友だちは、こんなことも言っていた。
「二人はお似合いじゃないですか。美男美女で2世もさぞかし美しいでしょう。そこらへんの財閥のおじさんと結婚するよりずっといい」
「そこらへんの財閥のおじさん」が誰なのか、韓国人なら思い当たる人がいるだろう。これまでに人気女優は財閥や富裕層の実業家と結婚することも少なくなかったからだ。
それにしても、なんと突然? ――ただ、こんな話も聞いた。
「私は前にドラマのメーキングを見た時に、この二人は何かあるなと思っていました。お互いを見る目に愛があふれていた。特にヒョンビンの表情ときたら、こちらがドキドキするぐらい」
彼女は韓国芸能界に近いところにいるためあまり多くを語らないが、二人は『愛の不時着』以前にも他のドラマで共演経験があるし、プライベートでも行動を共にすることがあったらしい。ただ、世間に公表するまでの関係になったのは、やはり『愛の不時着』がきっかけだったのだろう。
それにしても、なんという完璧な結末なんだろう。ファンタジーあふれる恋愛劇、多くの現実的課題を保留にし、非現実的な希望をアクロバット的につないで展開した物語のフィナーレが、なんと現実社会での超リア充ハッピーエンドとなるとは……。これを総演出したのは神? とまで思ってしまう。北朝鮮の将校リ・ジョンヒョクと韓国の超富裕層ユン・セリの愛は、ついにリアル社会で結実したのだ。
しかし当たり前だが、これはあくまでも「韓国内」での出来事だ。ドラマの舞台となった北朝鮮にこのニュースが届いているかはわからない。そもそも北朝鮮の人はこのドラマを見ることが出来たのだろうか? 最近になって「韓流の取り締まり」がどんどん激しくなっているという北朝鮮、この年末にも様々なショッキングなニュースが届けられた。たとえば昨年12月4日に発布された「反動思想文化排撃法」に関するものなどである。
「韓流を掃討せよ」 秘密文書入手 国内で韓国憎悪を煽る金正恩政権(2) 都市から追放、公開裁判まで
https://news.yahoo.co.jp/byline/ishimarujiro/20201229-00215211/
タイトルからして恐ろしいのだが、記事の内容はさらに強烈だ。この記事はアジアプレスの配信で書き手は石丸次郎さん、日本のジャーナリストの中で最も北朝鮮をよく知る人物の1人だ。アジアプレスの北朝鮮報道は日本だけではなく、韓国をはじめとする海外でも定評があるが、信頼を担保するのは取材が実際に北朝鮮で暮らす人々を通して行われていることだ。情報は常にリアルタイムで更新されている。
「愛の不時着」「梨泰院クラス」「パラサイト」「82年生まれ、キム・ジヨン」など、多くの韓国カルチャーが人気を博している。ドラマ、映画、文学など、様々なカルチャーから見た、韓国のリアルな今を考察する。
プロフィール
ライター、編集・翻訳業。愛知県生まれ。1990年に渡韓。ソウルで企画・翻訳オフィスを運営。2017年に同人雑誌『中くらいの友だち――韓くに手帖』」(皓星社)を創刊。著書に『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)等。『韓国カルチャー 隣人の素顔と現在』(集英社新書)好評発売中。