【短期連載】ある音楽家の "ステイホーム" 第5回

ステイホーム ~外の世界~

「弾き籠る」生活の日常と非日常に思いを馳せる

黒田映李
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「2、都会の矛盾 “自由が丘”」

 日本中のオシャレとマダムの象徴をめいっぱい詰め込んだような、キラキラを纏った街・“自由が丘”。巷ではスイーツの街、雑貨の街とされて、人気を集めている。

 この界隈は観光地、そして住宅地でもあって、そういう意味ではここは、特殊な場所とも言えるかもしれない。

 そんな街でビジネスをされている、いつも尊敬する、愛に満ち満ちたお姉さん。趣味に特化した、お客様へ届けとこだわりをつめこんだ雑貨屋さんを営んでいる。

「感染爆発の重大局面」。そうである為に、“週末の、不要不急の外出自粛”。

 東京都からこのような要請が発表されたのは、3月25日だった。それを受けてお姉さんのお店は、翌26日から、休業することを選択した。

 

「不要不急のものを売っているお店で、スタッフに感染リスクを負わせてまで営業を続ける勇気は、ない。」

 

 …その決断と措置の先には、

 

「ずっと休業継続をしていたが、ギブアップして閉店することに決めた。」

 

 という、言葉があった。

 

 この閉店への決断はしかしながら、説得力があり、前向きにも映る。

 店舗家賃、光熱費、人件費、倉庫賃料など、休業していてはどれもまかなえない。お姉さんのお店は、店舗と通販でのB to C、そして小売店向けの卸売のB to Bで成り立っている。今回は明らかに不採算となる路面店を閉め、コロナ禍を機会に業務の見直しも兼ね、一旦店舗を諦めることにするという形だそうだ。

 その決断をされたゴールデンウィーク明けの今も、その前も、お姉さんは会社を存続させる為、できる限り全てのことに取り組み続けている。

 

 休業中も定期巡回を続けているという、自由が丘のご自身の事務所周辺。人々は以前と変わらず群れていて、ゴミ箱の宛なく、歩きながら飲食をしている。ゴールデンウィーク中もゴールデンウィーク明けも営業している飲食店はそれなりに数があって、来店者ももちろんいる。カフェでは奥様たちが密集して座り、おしゃべりを楽しみお茶を飲む。その光景は世の中のウイルス危機に左右されることなく、ずっと、日常としてあるという。

 

 ここで、お姉さんの中に疑問が生まれる。

 …

 一体、いま起きていることは何なのだろうか。

 何が正しい行動なのだろうか。

 人との接触・8割減をしないと感染爆発が止められないことの根拠、そして結果は、いつ、どのように示されるのだろうか。

 このような状況で緊急事態宣言を継続した先に、希望は、あるのだろうか。

 …

 どの程度自粛をするのか、はたまたしないのかは、考えも事情も人や組織それぞれにあるのだろうと思う。そんな中で、お姉さんの持つ自粛の根拠は目下、医療関係者の現場からの声にあると聞いた。そしてもう一つ、揺るがず自らの根底にあるのは、“スタッフ、お客様、さらにその先の見えぬ人の命を守ること。”

 何よりも、全てに置ける政府の早期対応を心から願いたいと、強く話されている。

 

 ウイルスの影響の渦中、人と人の温度差や隔たりを感じている人は、きっと沢山いる。そんな中で、SNSでネガティブな事を発言することを封印して、日々淡々と、孤独な闘いを続けている飲食・飲食以外の経営者の方々もまた、多く存在しているという。

 

 一雑貨店店主である、お姉さん。

 ゴールデンウィークが明け、素朴な疑問と迷いと“心からの声”を、SNSに上げることを解禁された。

 

「皆さん、本当に大丈夫!?

 希望、持ててる?

 少なくともウチは、あんまり大丈夫じゃないよ?

 “助けてシグナル”、出せてる?」

 

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【短期連載】ある音楽家の

新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、その最初期から影響を被った職業のひとつが、芸術を生業とする人たちであった。音楽、絵画、演劇……。あらゆる創作活動は極めて個人的な営みである一方で、大衆の関心を獲得することができぬ限りは生活の糧として成立し得ない。そんな根源的とも言える「矛盾」が今、コロナ禍によって白日の下に晒されている。地域密着を旨とし、独自の音楽活動を続けてきたあるピアニストもまた、この「非日常」と向き合っている。実践の日々を綴った短期連載。

プロフィール

黒田映李

愛媛県、松山市に生まれる。

愛媛県立松山東高等学校、桐朋学園大学音楽学部演奏学科ピアノ科を卒業後、渡独。ヴォルフガング・マンツ教授の下、2006年・ニュルンベルク音楽大学を首席で卒業、続いてマイスターディプロムを取得する。その後オーストリアへ渡り更なる研鑽を積み、2014年帰国。

現在は関東を拠点に、ソロの他、NHK交響楽団、読売交響楽団メンバーとの室内楽、ピアニスト・高雄有希氏とのピアノデュオ等、国内外で演奏活動を行っている。

2018年、東京文化会館にてソロリサイタルを開催。2019年よりサロンコンサートシリーズを始め、いずれも好評を博す。

故郷のまちづくり・教育に音楽で携わる活動を継続的に行っている。

日本最古の温泉がある「道後」では、一遍上人生誕地・宝厳寺にて「再建チャリティーコンサート」、「落慶記念コンサート」、子規記念博物館にて「正岡子規・夏目漱石・柳原極堂・生誕150周年」、「明治維新から150年」等、各テーマを元に、地域の方々と作り上げる企画・公演を重ねている。 

2019年秋より、愛媛・伊予観光大使。また、愛媛新聞・コラム「四季録」、土曜日の執筆を半年間担当する。

これまでにピアノを上田和子、大空佳穂里、川島伸達、山本光世、ヴォルフガング・マンツ、ゴットフリード・へメッツベルガー、クリストファー・ヒンターフ―バ―、ミラーナ・チェルニャフスカ各氏に師事。室内楽を山口裕之、藤井一興、マリアレナ・フェルナンデス、テレーザ・レオポルト各氏、歌曲伴奏をシュテファン・マティアス・ラ―デマン氏に師事。

2009-2010ロータリー国際親善奨学生、よんでん海外留学奨学生。

ホームページ http://erikuroda.com

 

 

 
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