データで読む高校野球 2022 第6回

山田陽翔を攻略をした大阪桐蔭の「リベンジ」とコロナ禍のセンバツの課題

ゴジキ

 

2022年のセンバツから見えたコロナ禍の影響

 

さて、2022年のセンバツで例年以上に目立ったのが、各チームの守備連携のミスだ。

 

たとえば、開幕日の九州国際大付対クラーク記念国際の試合。

2回裏、九州国際大学付の攻撃時に、なんでもないセカンドゴロが同点タイムリーになるという珍事が起こった。このプレーでは、本来セカンドが取るはずのゴロをファーストが深追いしてしまい、1塁に誰もいなくなってしまったために失点に繋がった。

 

逆に九州国際大付も、2回戦の広陵戦と準々決勝の浦和学院戦で立ち上がりの初回に守備のミスが見受けられた。もともと秋季大会の予選から選手個人の守備力には定評があるチームであったのだが、そうしたチームが守備の連携でのミスで失点してしまうのは珍しいことである。

 

ここからは推測だが、こうした守備連携のミスが増えている要因として、おそらくコロナ禍の練習様式の影響があるのではないだろうか。それぞれの学校の方針にもよるだろうが、多くの学校では、感染対策のため対外試合や大人数での練習機会を控えている。そのため、チーム全体の連携が必要なプレーの練習時間が減り、守備連携での単純なミスが増えているように感じる。

 

同様に、大阪桐蔭の前田や浦和学院の宮城誇南(みやぎこなん)、九州国際大付属の香西一希、鳴門の冨田遼弥など左腕投手の活躍からも、コロナ禍の影響が垣間みえる。左腕投手は右腕投手よりも相対的に人数が少なく、タイミングやボールの軌道が異なるため、打者は「左慣れ」が必要になる。しかしコロナ禍において対外試合が減ったことで、左腕投手に慣れる機会は少なくなっている。その結果、センバツでは多くの学校が左腕投手に苦しめられたのではないだろうか。

 

この傾向は、派手に優勝した大阪桐蔭も無縁ではない。準決勝と決勝では守備の乱れがみられたうえ、1回戦では鳴門の左腕エース冨田を攻めあぐねていた。

 

絶対的王者、大阪桐蔭ですらコロナ禍の影響を受けたようにみえた2022年のセンバツ。

その大阪桐蔭は次の夏で3度目の春夏連覇を目指すことになるのだが、もし夏の甲子園とそのあとに開催される国体でも優勝することができれば、松坂大輔がエースだった1998年の横浜以来のグランドスラム(明治神宮大会・センバツ・夏の甲子園・国体の4冠)も夢ではない。この夏も大阪桐蔭からは目が離せない。

 

本連載は今回が最終回です。

 

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データで読む高校野球 2022

100年以上にわたり、日本のスポーツにおいてトップクラスの注目度を誇る高校野球。新しいスター選手の登場、胸を熱くする名勝負、ダークホースの快進撃、そして制度に対する是非まで、あらゆる側面において「世間の関心ごと」を生み出してきた。それゆえに、感情論や印象論で語られがちな高校野球を、野球著述家のゴジキ氏がデータや戦略・戦術論、組織論で読み解いていく連載「データで読み解く高校野球 2022」。3月に6回にわたってお届けしたセンバツ編に続いて、8月は「夏の甲子園」の戦い方について様々な側面から分析していく。

関連書籍

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プロフィール

ゴジキ

野球著述家。 「REAL SPORTS」「THE DIGEST(Slugger)」 「本がすき。」「文春野球」等で、巨人軍や国際大会、高校野球の内容を中心に100本以上のコラムを執筆している。週刊プレイボーイやスポーツ報知などメディア取材多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターも担当。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』(インプレスICE新書)、『坂本勇人論』(インプレスICE新書)、『アンチデータベースボール データ至上主義を超えた未来の野球論』(カンゼン)。

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