腹から金玉 39歳、目が覚めたらオストメイト ep.28

とにかくテンションが下がっている

2024年7月14日(日)の記録
かわむらまみ

ある日、いきなり大腸がんと診断され、オストメイトになった39歳のライターが綴る日々。笑いながら泣けて、泣きながら学べる新感覚の闘病エッセイ。

お元気ですか。わたしはあんまり元気じゃありません。

2ヶ月前に倒れて救急車で運ばれて、がんがわかって緊急手術をして、ストーマができて、入院して、退院して、ステージが判明して、と思ったら腸閉塞でまた入院して、また退院して、抗がん剤治療が始まって、がんの悪性度がわかって、という怒涛の日々の中で、今が一番テンションが下がっています。なぜか? 顔中に白ニキビができているからです。

この流れの中で一番嫌なの、まさかのニキビなんだ。我ながら驚いている、自分の感情の在り方に。エルヴィス・プレスリーは慢性の重い便秘を患っており、自身のプライドが許さず、ストーマの造設を拒否し続けて亡くなったという(諸説あり)。一方のわたしは、ストーマのあるなしは今となっては心からどうでもよくて、そんなことよりニキビによってとてつもなくテンションが下がっている。

そう、これは極めて個人的な価値観とプライドの話なのです。プレスリーがストーマを有する自分を認められなかったように、わたしもニキビだらけの自分の顔面を許せない。わたしはプレスリーを責められないし、プレスリーもわたしを責められない。もし今誰かに「ニキビごときで」と笑われたら、わたしはそいつに向かってただちに矢を放つ。しかも、なんか燃えているやつ。

問題は、この肌荒れが点滴によるものなのか、それとも内服薬によるものなのかということだ。わたしが受けているCAPOX(XELOX)療法は、初日に抗がん剤のオキサリプラチン点滴を打ち、そして初日〜2週間の間にカペシタビン錠の内服を行い、3週目は休薬というサイクルを繰り返す抗がん剤治療で、点滴薬と内服薬はそれぞれ異なる副作用を持っている。点滴は初日に1回しか打たないので、1週間もすれば副作用は薄れてくるのがセオリーだ。しかし、内服薬は飲み続けることで体内に成分が蓄積されるため、副作用はだんだんと重くなってくる。

頼むから、肌荒れは点滴薬の副作用であってほしい。もし内服薬の副作用でこれからもっと悪化する恐れがあるなら、わたしは抗がん剤治療をやめかねない。極端な話、わたしは死んでも自分の肌を守りたい。「死<肌」なの、自分でもまったく意味がわからないけれど、わたしはいたって真顔でこの散文を書いていますから。え、どういうこと?

2クール目の治療では、1クール目では見られなかった副作用が散見されている。肌荒れに加えて、手のこわばりや、足がつりそうになる感覚、そして漫然と続くだるさなど。だるさは、まあ、低気圧のせいかもしれないけれど。わたしの中では、すべての不調は抗がん剤または低気圧のせいということになっている。わたしが悪いことなんて、まじでただのひとつもない。それにしても、抗がん剤治療って同じ副作用がどんどん重くなっていくものだと思っていたけれど、毎回こうやって新たな敵が出てくる感じなの? それはちょっと困るなぁ。

当たり前っちゃ当たり前だけれど、ニキビは化粧により悪化することがわかった。特にクッションファンデとの相性は最悪。そのことがわかった今、できる限り化粧を控えたいので、少なくとも来週はすっぴんで過ごして、すべてのオンライン社内ミーティングをカメラオフのままで挑むことにする。社会人として面目ない。でも決めたから。仕事と肌、どう考えたって大事なのは肌だ。そもそも、わたしが化粧による肌荒れを防いでメンタルを健全に保つことは、パフォーマンスの低下リスク回避に直結する。となると、会社としてもカメラオフのミーティング参加を容認したほうが、結果的にメリットがあるに決まっている。もし誰かに何か言われたら、この半ば無理やりな理屈を通すよりほかはない。こんなわたしでも社会人としてギリギリやれているのは、他人事のように不思議だなぁと思っているけれど。

「テンションが下がる」「嫌だ」は「悲しい」「苦しい」といった感情とはまた異なるので、がんの罹患がわかったときやストーマを造設したときより今がつらいとは一概に言えない。けれど、まあ本当に言葉のままで、とにかく嫌だしテンションはめちゃくちゃ下がっています。はい。

(金曜更新♡次回は5月16日公開)

________________________________________

オンラインミーティングはカメラオフ参加のくせに、ここで顔を出していてはそれこそ会社に顔向けできないので、せめてもの配慮で顔を隠した写真を載せておきます。

 ep.27
腹から金玉 39歳、目が覚めたらオストメイト

ある日、いきなり大腸がんと診断され、オストメイトになった39歳のライターが綴る日々。笑いながら泣けて、泣きながら学べる新感覚の闘病エッセイ。

プロフィール

かわむらまみ

ライター

1985年生、都内在住。2024年5月にステージⅢcの大腸がん(S状結腸がん)が判明し、現在は標準治療にて抗がん剤治療中。また、一時的ストーマを有するオストメイトとして生活している。日本酒と寿司とマクドナルドのポテトが好き。早くこのあたりに著書を書き連ねたい。

集英社新書公式Twitter 集英社新書Youtube公式チャンネル
プラスをSNSでも
Twitter, Youtube

とにかくテンションが下がっている