本を閉じれば、聞きたくもない声が聞こえてくる。
衆議院が解散して、選挙になった。六百億円もかけてやる必要があるのか、私には疑問である。
勝手に解散しておいて、そのうえ、野党も誰かの一声で分裂した。
一体、誰に入れればよいのか、真に民の声を聞こうとしているのか。
民たちは、いつの時代もどの国でも、国家の大きな波にさらされ続けているではないか。
トランプ大統領は記者団に対して「米国を脅さないほうがいい。世界が見たこともない炎と激怒で対抗する」と言い放った。
ことが起きれば、百万の民が死ぬという。何を考えての発言か。
そこには軍事施設があるだけではない。老人がいて、子どもがいる。学校があり、工場もあるだろう。
長い経済制裁で、食料が不足している。満足な医療も受けられずにいる。
おそらく日本も巻き込まれるだろう。
平然と百万人死ぬことになるなど、どの口が言うのだ。
私が今月観た三本の映画は、どれも国家に翻弄された民たちの物語だ。
ボスニア・ヘルツェゴビナの紛争と思わせる背景のなか、架空の村でたくましく生きる人々。
キューバは何十年も続くアメリカからの経済制裁で、五十年前の街がまぼろしのように現存している。
そこから、這い出してきた老人たちが歌っている。
明るく、悲しく、哀愁に満ちて!
年寄りが泣くのはなにも涙もろくなったからではない。若いときには、想像することのできなかった、新しい感情を手に入れたからだ。
戦いは常に愚かであり、人々を苦しませる。
みんなわかっているのだが、誰も止めることができない。
国連が作られ、核兵器禁止条約も多くの国が参加しているが、大国はそれを無視する。
民たちは、それを傍観し、しかたがないと胸にしまう。馬鹿な笑いとつまらぬ冗談で時が自分を追い越していく。
連載では、シティボーイズのお話しはもちろん、現在も交流のある風間杜夫さんとの若き日々のエピソードなども。
プロフィール
おおたけ・まこと 1949年東京都生まれ。東京大学教育学部附属中学校・高等学校卒業。1979年、友人だった斉木しげる、きたろうとともに『シティボーイズ』結成。不条理コントで東京のお笑いニューウェーブを牽引。現在、ラジオ『大竹まことゴールデンラジオ!』、テレビ『ビートたけしのTVタックル』他に出演。著書に『結論、思い出だけを抱いて死ぬのだ』等。