平成消しずみクラブ 第7回

カラスが鳴いたら

大竹まこと
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「死のうか」
「あー、何」
「だから死のうかって」
「ふーん」
「私と死んでくれる?」
「あーいいよ」
「本当、いつ」
「うん、今日はちょっとなあ」
「いつ」
「明日……いや」
「……」
「来週ぐらいかな」
「うん、ウソつき」
「……」
「いいわヨ、もう、他の人に頼むから」
「他に?」
「秘密ヨ」
「誰だヨ」
 私は女の首に手をまわした。少しずつ、指に力をこめた。
 女は一瞬、「え!」と驚いたが、すぐに私を見る女の瞳が強くなった。
 私は(ひる)んだが、それを見透かされるのがなぜか(しやく)にさわり、両手の力をさっきよりも強くした。
 女は観念したように、目を閉じた。身を私にまかせた。肩や腕からも力が抜けていくのがわかった。
 私にはもう手立てがない。負けを認めて、指の力を抜いて、喉のあたりを()でた。
 本当はとても怖かった。
 一人の人間の命が私の手の中にあったこと、戯れとはいえ、すべてを平気で委ねられる女も。

 死がとても魅力的に思える時がある。
 とくに、若い人は自分の居場所が狭く、そのうえ、そこでしか生きていけないと思っているのだから、なおさらだろう。
 神奈川県座間市のアパートで九人の遺体が見つかった事件では、SNS(ソーシャル・ネット・ワーキング・サービス)で自殺願望を漏らした女性たちが巻き込まれた。
 事件の被害者は、十〜二十代の若者だった。
 教育評論家の尾木直樹さんは、自殺願望は思春期の特性というべきもので、自己嫌悪、自身の人格への疑い、生まれたことに対する疑問、将来への不安は、多かれ少なかれ、誰もが抱くと、毎日新聞に答えている。
 もちろん、分析すれば、その通りなのかもしれないが、当事者一人ひとりに、それはわからない。
 自分がどんな精神状態にあるのか、渦中にいる人には判断ができない。

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平成消しずみクラブ

連載では、シティボーイズのお話しはもちろん、現在も交流のある風間杜夫さんとの若き日々のエピソードなども。

プロフィール

大竹まこと

おおたけ・まこと 1949年東京都生まれ。東京大学教育学部附属中学校・高等学校卒業。1979年、友人だった斉木しげる、きたろうとともに『シティボーイズ』結成。不条理コントで東京のお笑いニューウェーブを牽引。現在、ラジオ『大竹まことゴールデンラジオ!』、テレビ『ビートたけしのTVタックル』他に出演。著書に『結論、思い出だけを抱いて死ぬのだ』等。

 
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