平成消しずみクラブ 第11回

官僚たちの矜持

大竹まこと

「私は国家公務員ですので、国民に対して一生懸命やってきたと思っております」
 佐川氏は間を置かず、即座に答えた。自信に満ちた声のように聞こえた。しかし、二度ほど大きなまばたきをした。
 私には、まばたきではなく、目を閉じてしまったように見えた。
 いつまでこの会見は続くのだろうか。
 それでも佐川氏は与えられた職務を果たそうと、マイクに向き直った。
 私はすぐに次の質問があってよかったと思った。でなければ、佐川氏はその場に崩れ落ちてしまったのではないか。
 次の記者の質問がぎりぎり彼を立ち直らせた。
 わずか二一分間の会見であったが、佐川氏には永遠に続くように思えたかもしれない。
 この会見後も、森友問題は大きな展開を見せ、新たな事実がいくつも浮かび上がった。
 会計検査院さえも、二つの文書を手に入れながら、改ざんを見抜けなかったと陳謝した。
 衆議院議員の小沢一郎氏(自由党代表)が記者会見で答えている。
「最高権力のところから指示が直接的であれ間接的であれ出ていなければ、財務省の役人がいくら落ちぶれたとはいえね、こんなばかげたことはしませんよ。役人でこんなことできる度胸のあるのいないよ。こりゃもう上から言われたからしょうがない(略)」(朝日新聞デジタル・二〇一八年三月一三日)
 元・自民党の幹事長、一時は政権の中枢にいて、ときの総理大臣よりも権力を握っていたと言われた男の発言である。
 野党だけではない。批判は与党からも起こっている。
 自民党の村上誠一郎元行革相の発言である。
「(森友学園との国有地取引に関する決裁文書の改ざんについて)(略)こんなことが起きれば、国会は国民のためにまともな議論ができない。まともな材料が出てこないからできないわけで、政府の責任は非常に重い」(朝日新聞デジタル・二〇一八年三月一三日)
 この後もっと厳しい言葉が続く。
 自民党の注目株、小泉進次郎氏もインタビューに答えている。
「これから、自民党自身もなぜこうなったのか重く受け止め、行政だけでなく、政治がどう向き合うかがすごく問われている、政治にしかできないことがある。自民党は、官僚だけに責任を押しつける政党ではない。その姿を見せる必要があるのではないか」(日刊スポーツ・二〇一八年三月一二日)

 私は決して、佐川氏の肩を持つ者ではない。いずれ、事実があきらかになる。
 ただ、ここまで書いてきたとおり、そして小沢一郎氏のおっしゃるように「こりゃもう上から言われたからしょうがない」と、役人がその道をまっとうしたのではないかと思えてならない。
 二浪して東大に入り、大蔵省に入省し、国税庁長官にまで上り詰めて、国民の納税時期である三月に辞任した。
 どこで歯車が狂ってしまったのか。
 これは又聞きではあるが、東大から官僚を目指した男女たちがまず最初にやらされることは、丹念に新聞を読むことだそうだ。一年近くそんな仕事をやらされるらしい。何を調べるのかといえば、自分が所属する省の記事(正確には悪口)を探すらしい。そして報告する。
 そんな馬鹿なと思うかもしれないが、これは知人の東大生の言っていた話である。もし、私なら心が少し捻(ね)じ曲がるかもしれない(話半分にしても、すごい)。

 

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連載では、シティボーイズのお話しはもちろん、現在も交流のある風間杜夫さんとの若き日々のエピソードなども。

プロフィール

大竹まこと

おおたけ・まこと 1949年東京都生まれ。東京大学教育学部附属中学校・高等学校卒業。1979年、友人だった斉木しげる、きたろうとともに『シティボーイズ』結成。不条理コントで東京のお笑いニューウェーブを牽引。現在、ラジオ『大竹まことゴールデンラジオ!』、テレビ『ビートたけしのTVタックル』他に出演。著書に『結論、思い出だけを抱いて死ぬのだ』等。

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