水道橋博士の「日記のススメ」 第5回

なぜ早朝に書くのがベストなのか?

水道橋博士

浅草キッドの水道橋博士は、タレントや作家の顔を持つ一方で「日記を書く人」としても知られています。

小学生時代に始めたという日記は、たけし軍団入り後も継続、1997年からは芸能界でもいち早くBLOG形式の日記を始めた先駆者となり、現在も日々ウェブ上に綴っています。

なぜ水道橋博士は日記を書き続けるのか? そこにはいったいどんな意味があるのか?

そう問うあなたへの「日記のススメ」です。

 

読み返す労は惜しまない 

 今回は日記を書くタイミングについて書いてみたいと思います。

 ボクが長年日記を書いてきて至った結論は、ズバリ、朝です。

 しかも早朝がベストです。

 現代はSNS社会であり、Twitterやface bookを連動させているだけで、随時、他人の書き込みが目に入ります。

 最も、その他者からの雑音の動きが少ないのが早朝です。

 夜から朝が明ける静寂に包まれたなか、昨日を冷静に振り返り、ようよう白くなりゆく外界を意識しつつ、自分の内面に作られた昨日をリセットさせます。

 書き終えたら褒章としての朝食をとります。

 もはや、ルーティンとしてボクの生活に定着しています。

 勉強するなら早朝が良いことは「朝活」という流行語になって時を経ていますし、既に学説として定着している話でもあります。

 脳科学者の茂木健一郎さんは「朝の起床後の約3時間は脳が最も効率よく働くゴールデンタイム」と呼んでいます。

 茂木先生は次のように説明しています。

 

「私たちは日中の活動を通して、目や耳からさまざまな情報を得ています。その情報は大脳辺縁系の一部である海馬に集められ、短期記憶として一時的に保管されます。その後に、大脳皮質の側頭連合野に運ばれますが、この段階では記憶は蓄積されているだけです。

それが睡眠をとることで、記憶が整理され長期記憶へと変わります。すると朝の脳は前日の記憶がリセットされるため、新しい記憶を収納したり、創造性を発揮することに適した状態になります。この脳の仕組みが、朝の時間がゴールデンタイムだと言われる理由です」

(PHP Online 衆知|脳科学者が勧める「朝時間」の使い方)

 

 逆に「日記は一日の終わりの夜、眠る前に一日を反芻して書き綴るべし」という説を唱える方も数多くいらっしゃいます。

 しかし、夜は夕食の消化のために内蔵に血流が集中して、頭がパフォーマンスを発揮できなかったり、睡魔が襲ったりと、お酒の好きな方ならなおさらですし、面白いテレビもあったり、誘惑も多いので書き仕事をするには最も向いてないような気もします。

 しかし、洋の東西の掲示板で「日記を夜書くか、朝書くか」という議論を眺めていると大抵の場合、ボクが見るところ、夜派が優勢なのです。

 その多くの理由は、一日に起きたことを「忘れないうちに書き留めたい」というものがほとんどです。

 しかしこれは、ボクがこの連載で「メモのススメ」を提唱しているので、その日の夜に慌てて書く必要はないと断言できます。

 夜日記はやはり体験的には決してオススメできません。

 何故なら、夜は一日の冷却期間を経てないので、感情の迸りがペンに先走り、そのまま記されることが多いように思います。

「夜に手紙を書くな」という格言もあります。

 日中のテンションのままに情熱的に、あるいは夜の孤独感に引きずられて感傷的に綴ったラブレターを朝に読み返して赤面。「このまま投函しなくて良かった!」という経験をした方もいらっしゃるでしょう。

(ただしeメール時代は、もう手遅れですが…)

 朝なら、一定の睡眠時間を経て、昨日という過去を俯瞰から眺めることができます。 

 そして朝書いたものでも、手紙、日記に限らず、少し間を開けて読み返す労を決して惜しまないで下さい。

あさイチでパソコンに向かいBLOG執筆にかかる。

 

話題を限定せず、起床から就寝まで書く

 次に、日記を一日の何処から何処までのスパンで書くかの問題ですが……。

 これも私見になりますが、ボクの場合は、昔から起床時間から就寝時間まで必ず書いています。

 日記書き(ダイアラーと呼びましょう)を分析すると、この傾向は男性に多いそうです。

 ボク自身は、性格的に一度、ルーティンを決めてしまうと、そこを完全に履行しなければ気が済まない性質(タチ)です。

 BLOGの登場とともに、日記のなかで話題を限定する書き込みも増えました。

 食事とか趣味とか子育てとか、読み終えた本の書評、映画評、スポーツ観戦などプライベートのみに限定する日記です。

 これは世の中には、仕事の内容を守秘義務で書けない職業が大半だからでしょう。

 例えば、我々芸能人の場合は、作品作りに関して情報公開を待たねばならない現場も多々あります。

 特に俳優さんの場合は、それが長期に及ぶことは多々あり、日記を書いていても情報部分は記さないか、記しても自粛した、感情の黒塗りだらけの文章になります。

 俳優さんのBLOGには名作が少ないのは、そこも大きいと密かに思っています。

 幸い、ボクには情報公開の待機は少ないので、ほぼ現在進行系で「ボク」が主人公のドラマの脚本を書いている気分で日常を描いています。

 日記の世界では常に「人生は舞台、貴方が主役」(©ポール牧)です。

 

昨日の自分に負けない

“朝の日記習慣”でweb検索すると必ず啓発系まとめサイトで登場するのが、元マーティン・スコセッシ監督の配偶者で、長年アメリカの映画、演劇、テレビ等々の界隈でクリエイターとして活躍するジュリア・キャメロンという人物です。

 彼女が提唱していることは、なるほどと思わせる点も多々あります。

 彼女がクリエイターとして成功したい人たちに向けて書いた『The Artist’s Way』(邦題『新版 ずっとやりたかったことを、やりなさい。』)という著作で推奨したのが、まさに朝に日記を書くこと。この手法である「モーニングページ」はまたたく間に世界中に広がりました。

 モーニングページとは、起床してすぐ、頭に浮かんだことをそのまま3ページほど手書きで書き留める習慣で、創造性を高め、ネガティブな考えを捨て、目標を明確にする効果があるのだそうです。

 ボクが日記を書くモチベーションもまさにこの辺りにあります。

 ボクが意識して言語化している一番のスローガンは「昨日に負けない!」です。

 似たような概念で言えば、多くの人の座右の銘にする言葉で、「一日一生」があります。

 一日を一生と考えて日々、自己ベストを尽くすべきだという標語です。

 最近、気がついたところで言えば、古舘伊知郎さんが色紙にこの言葉を添えていました。

 言霊は不思議なもので、一日の始めや終わりに「一日一生」と意識して書くと、例えば、一日の一時間でも貴重な時間に思えてきます。

 一日は一時間がたった24回しかないのか、と思えてきますから。

 ボクが日記に向かう時に必ず意識してする行為は、一昨日について書かれた昨日の日記を読み返すことです。

 そして、一昨日より、より良い昨日を描くと、今日は、もっと日記で昨日を超えるような行動を起こそうと一日の始まりに言い聞かすことが出来ます。

「昨日に負けまい!」と。

「昨日に負けない!」という標語は、純粋に「質」ではなく「量」の問題です。

「虚無」を作らないための「行為」を増やそうという試み、覚悟になります。

 もっと言えば、一日が3行くらいの文字数でくくられることが耐えられないのです。

 子供の頃、「今日は何も書くことがない一日だった」という日記を書くたびに、自己嫌悪に陥ったことを思い出します。

「昨日に負けない!」を意識すると「書くことがない」という日はなくなります。

 日記を長く書いていると、一行目の書き出しのパターンが無くなってきたり、書く内容もありきたりのものになってきたりします。

 しかし朝日記の場合は、昨日を振り返りつつも、今日(明日)はこうしたい、ああしたいという願望をポジティブに綴ることができます。

 上述の「モーニングページ」の発想に沿えば、書くことがないときには「今日は何を楽しみにしているか」「今日始めてみたい新たなチャレンジは何か?」「今日の仕事を成功するために何が必要か?」「今日、自分に言い聞かせたいことは?」などなど、数々の発想の定型を作っておくことで筆が飛ぶよう進みます。

 

鬱病の時はどうするか

 そんなボクですが、24年間、BLOGを書き続けているなか、一昨年、鬱を病んだ時には日記が書けなくなりました。

 鬱病は人生で何度か発症しており、そのたびに付き人兼秘書であったズズキくんに、口述筆記で繋いだ時期もあります。

 しかし、完全に、ほぼ何も残していないのは一昨年の6ヶ月ほどの間です。

 鬱病の治療に関しては体験記として、別途書いてみたいのですが、端的に言えば、決してメンタル、心の病気とは思えません。

 純粋に脳の機能不全だと理解しています。

 ですから言葉を司る脳の神経に不具合があるために、言葉を思い出せない症状となり、書くことすら難しくなります。

 必然、会話も少なく、外出などの行動も出来ないので、平板な日常を内面世界で悶々と苦しむだけです。

 ボクの判断では、そこは無理して書くことはなく、日記を残したい人は隣人にお願いして、客観的な記録を残すことに徹した方が良いと思います。

 

 とにかく、朝の日記習慣はつけること。

 最初は短い文章で構わないので、自分のなかで儀式化しましょう。

 朝食の前でも後でも、寝ぼけ眼(まなこ)のままベッドの上で半身を起こした状態でも、とにかく一貫性、習慣性が身につくまで頑張ってみて下さい。

 またしても啓発本めいてきますが、習慣を定着させるには21日間が必要だと良く言われます。

(これも諸説ありますが……)

 ダイエットの世界だと3週間は、体重の減り具合も鈍化してきてリバウンドも始まる頃です。

 この21日の壁を超えた先に、朝日記も必ず効果が出始めることを期待して下さい。

 某ライザップのCMのように朝日記を3週間続けた先に、明るい希望に満ちた、見違えるようなあなたの笑顔が!

(※個人の感想です)

 と、ここまで今回は、朝日記の効用について書いてきましたが、ボクはみなさんが日記を書く習慣さえ身に付いてくれれば、それで、この本の趣旨は全うし御の字なので、朝でも夜でも、無理をせずご自身のライフスタイルのなかで是非習慣化してみて下さい。

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プロフィール

水道橋博士

1962年岡山県生れ。ビートたけしに憧れ上京するも、進学した明治大学を4日で中退。弟子入り後、浅草フランス座での地獄の住み込み生活を経て、87年に玉袋筋太郎と漫才コンビ・浅草キッドを結成。90年のテレビ朝日『ザ・テレビ演芸』で10週連続勝ち抜き、92年テレビ東京『浅草橋ヤング洋品店』で人気を博す。幅広い見識と行動力は芸能界にとどまらず、守備範囲はスポーツ界・政界・財界にまで及ぶ。著書に『藝人春秋』(1~3巻、文春文庫)など多数。

水道橋博士の日記はこちら→ https://note.com/suidou_hakase

 
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