大江千里のジャズ案内 「ジャズって素敵!」 Vol.2

いまヒットしている曲のすべてがジャズです

大江千里

YOASOBIの「アイドル」もジャズ?

いま街でかかっている音楽のほとんどがジャズです。こういう出だしで始まると、ええ?本当?と思われる方もいらっしゃるでしょう。あらゆるジャズの要素が潜んでいるのです。それが心地よかったり、耳に引っかかったりするのです。では早速解説していきましょう。

まず2023年の紅白歌合戦でのパフォーマンスが記憶に新しい2人組ユニットYOASOBIの「アイドル」(2023)です。この曲を初めて聴いた時はもうこのままジャズとして演奏できるなと思いました。非常に覚えやすいメロディでありながら、ジャズっぽいとも言えるおいしい飛距離の場所へと音符がバンバン飛びまくります。非常にスリリングで歌うのは難しいでしょうが、逆にスイングさせると「え?元々ジャズスタンダードでしょ?」と思うくらいピタッとハマる要素を持っているのです。

注釈:因みにスイングとはシンプルな4ビート、ジャズの中でもわかりやすいリズムのことです。「チーン チッチ チーン チッチ」というシンバル・レガートは、スイングジャズのアイコンとも言えるリズムです。

早速ですが楽曲分析をしてみたいと思います。

「今日何食べた?好きな本は?遊びに行くならどこに行くの?」で始まる1番の平歌はジャズにした場合マイナーコード1発で対応できます。そのコードを固定したままメロディの導入部分のキャッチーな動きだけで楽しみます。その後、「そう淡々と だけど燦々と 見えそうで見えない秘密の味」あたりも先ほどのマイナーコードの延長線で行けると思います。

そしてなんと言っても、サビの「誰かを好きになることなんて私わからなくてさ」の強烈な印象のメロデイ波形を活かしたいところです。「好きに」あたりの音符が連続して”くって入る感じ”、そして「そんな言葉にまた1人堕ちる」の「言葉に」が今度はちょっぴり”ラテン”でこのビートに置いていく感じ。景色が素早くコロコロ変わるので聴き逃しがちですが、ジャズに変換すると活きそうなこのような”くって入る”や”ラテンビート”が怒涛の如く、この「アイドル」には頭から連続登場しているというわけなのです。

YOASOBI「アイドル」 Official Music Video

こうやって分析するとYOASOBI「アイドル」はかなりジャズになりそうな要素を含んでいることがわかります。アレンジやビジュアルのインパクトに耳や目を奪われがちなこうした曲も、実はテンポを変えフィーリングを変えると一気にジャズになるんだということが見えてきます。実際にそれをやっている演奏家を見つけましたので紹介します。

アイドル idol (YOASOBI) -Jazz ver- 北島直樹×仲石裕介

ピアノを弾いている北島さんのソロパートに注目して頂きたいです。ちょっぴりジャズスタンダードの「バードランドの子守唄」を彷彿させるようなメロディが聴こえるのですがどうでしょうか?みなさんの耳にはどう響きましたか?

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プロフィール

大江千里

(おおえ せんり)

1960年生まれ。ミュージシャン。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー。「十人十色」「格好悪いふられ方」「Rain」などヒット曲が数々。2008年ジャズピアニストを目指し渡米、2012年にアルバム『Boys Mature Slow』でジャズピアニストとしてデビュー。現在、NYブルックリン在住。2016年からブルックリンでの生活を note 「ブルックリンでジャズを耕す」にて発信している。著書に『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』『ブルックリンでソロめし! 美味しい! カンタン! 驚きの大江屋レシピから46皿のラブ&ピース』(ともにKADOKAWA)ほか多数。

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