オレに死ねと言ってんのか? ━検証!高額療養費制度改悪━ 第13回

高額療養費制度をめぐる現状は、結局どうなっているのか?

西村章

高市政権は高額療養費制度をどう捉えているのか?

 参院選以降に流動化を続けていた政治の動きも、高額療養費制度の議論を中心に簡単にまとめておこう。石破茂内閣が解散して高市早苗内閣が発足したことに伴い、厚労相は福岡資麿氏から上野賢一郎氏へ交代した。石破政権時代に「秋までに新たな方針を決定」としていた高額療養費制度の見直しについて、上野厚労相は10月31日の取材で「12月にずれ込むことになろうかと思う」と述べたことが報じられたが、上に記した専門委員会や医療保険部会での議論の流れを見れば、そう回答するのは当然だったことがわかるだろう。

 新内閣発足後の臨時国会では、11月7日の衆議院予算委員会で立憲民主党から中島克仁議員が質問に立った。中島議員は超党派議連事務局長でもあるだけに、高額療養費制度の〈見直し〉に関する質疑応答は約20分間続いた。

 その中で、中島議員は再三にわたってこの12月に自己負担上限額を引き上げるような見直しをしないと明言するよう求めたが、高市首相は直截的な回答をせず、言質を与える言葉も発しなかった。ただし、「医療保険制度改革全体の中で検討していくことが必要」「高額療養費だけの引き上げで解決すべきものではない」「全体感をもって」といった言い回しからは、おそらく上記で述べたような高齢者の窓口3割負担対象者の増加(とそれに伴う高額療養費外来特例の減少)や一部OTC類似薬の保険適用見直しなどの措置を優先的に検討する、という方向性を婉曲に示唆する伏線、と解釈することも可能だろう。これは、中島議員と高市首相の一連の質疑応答の中で答弁に立った上野厚労相が「全体的な改革の議論の中で、高療費だけを取り出して先に、ということはなかなか行かないだろう」と述べていることとも平仄が合う。

11月7日の衆院予算委員会で質問する立憲民主党の中島克仁氏(写真:毎日新聞社/アフロ)

 ただし、このやりとりでは高市首相が「患者の方々の経済的な負担が過度なものにならないように配慮して、一方で能力に応じてどう分かち合うかという観点から検討を進めていく」と述べ、上野厚労相も「能力に応じてという観点もあろうかと思う」という言葉遣いの答弁もしている。そこからは、現役世代に対する自己負担上限額引き上げに含みを残していると解釈することもできる。昨年冬のような現役世代の制度利用者を狙い撃ちにする〈見直し〉は行わない、と断言したわけではないので油断はできない。

 とはいえ、自身が自己免疫疾患の関節リウマチに罹患して人工関節置換も行ったことを以前にも明かしていた高市首相が、この質疑応答の中では改めて、「病名を告げられたときには絶望的な思いになりました」「一生、この薬剤を打ち続けなければいけないのか、しかも(治療費が)高い」「患者の方々の苦しみや悩みやそのときの絶望感はよくわかっているつもり」と正直に述べ、それらの言葉に続けて、「医療制度改革全体のなかでしっかりと丁寧に考えていくということにかわりはございません」と話してもいる。これらの発言で警戒感を緩めるわけではけっしてないものの、同じ疾患を持ち非常に似た治療を行っている当事者として、重みがあり示唆に富む内容だった、とひとまずは受け止めておきたい。

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プロフィール

西村章

西村章(にしむら あきら)

1964年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、雑誌編集者を経て、1990年代から二輪ロードレースの取材を始め、2002年、MotoGPへ。主な著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)などがある。

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