特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく 第7回

『羽生結弦は捧げていく』高山真が見た、フィギュアスケート世界選手権1日目

高山真
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 そして最終グループの一番手で登場した坂本花織。

「生観戦すると、その凄みがよりわかる」のはフィギュアスケートの醍醐味ですが、その醍醐味をもっともくっきり味わわせてくれるスケーターのひとりが、坂本花織だと私は思っています。

 スケーティングの1歩1歩の大きさ、なめらかさ。「インサイドエッジからアウトサイドエッジへ」、または「アウトサイドエッジからインサイドエッジへ」とエッジが切り替わる際、「よくこれで転ばないなあ」と思ってしまうほどに、エッジを倒して、非常に深いエッジで切り替えていく。しかもスピードがゆるむことはありません。

 加えてジャンプの大きさと高さ、回転軸の確かさ、着氷後の流れも超一級品です。

 エリック・サティの『ジムノペディ』に歌詞をつけた、シャルロット・チャーチの曲に乗せ、自己ベストを更新。四大陸選手権では悔しさで涙を流した坂本花織の、見事な修正能力がフリーでもいかんなく発揮されますように!

 次に登場したのはブレイディ・テネル。平昌オリンピックの女子ショートプログラム、全出場者の第1滑走者として登場したテネルに度肝を抜かれたことを覚えています。冒頭のトリプルルッツからトリプルトウのコンビネーションジャンプは転倒してしまったものの、驚いたのはその直後。立ち上がるやすぐに、トランジションのエッジワークに入っていったのです。それは明らかに「コンビネーションジャンプの着氷の流れを利用しておこなうトランジション」でした。

「第1滑走の選手が、これだけ野心的なトランジションを組み入れているのか」ということに、戦慄に近い感動があったのです。

 そして1年後、テネルは最終グループに入る選手になりました。ほかのトップスケーターと「スピード」でも互角に渡り合う日がくれば、ますます楽しみで、恐ろしい存在になるはずです。

 宮原知子は、冒頭のコンビネーションジャンプのひとつめ、トリプルルッツで少し詰まってしまったこともあり、ふたつめのトリプルトウは回転不足に。しかし、演技の始まりから終わりまで、やはり、一瞬たりとて「振り付けの流れやポースにも、気持ちの面でも、少し甘くように見えてしまう」箇所がない。拙著『羽生結弦は捧げていく』(以下『捧げていく』)でも書いていますが、何度見ても「本当にエレガンスの密度が高い」選手だと感じ入ります。

 修正能力の高さも特筆すべき、宮原。フリーでは、回転不足をとられたジャンプの修正もきっと万全にしてくるはず……と大きな期待をしています。

 そして、エフゲニア・メドベージェワの復活。会場中が熱狂していました。『捧げていく』で私は、

「北米仕込みのエフォートレス・スケーティングと、メドベージェワがもともと持っている能力の高さが合致すれば、さらに大きな花が咲く可能性はきっとある。それまで気長に待ちたい」

 と書きました。その最初の兆しを、世界選手権という大舞台で見せてくれたことに感動と感謝しかありません。ありがとうジェーニャ。ありがとうクリケット・クラブ。

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特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく

『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。

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プロフィール

高山真

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。

 
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