特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく 第9回

アイスダンスと女子フリーの熱戦から、男子フリーを想う―― 『羽生結弦は捧げていく』高山真が見た世界選手権3日目

高山真
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 パパシゼのスケーティングの1歩1歩の大きさと伸びやかさ、スピード、互いの足元の距離の近さ、そして足元と連動する濃密な上半身の振り付け、それらが一体となったときに放出される世界観……、どれをとっても圧倒的。世界の超一流選手と比べても、パパシゼの圧勝でした。そしてこの感覚は、この演技を見ている方々すべてに共有されていたはずと確信しています。

 テレビの画面を通じてではなく現地観戦して、私がこの種の「ほかの組を圧倒するほどの何か」を感じたのは、20年以上前、オクサナ・グリシュク&エフゲニー・プラトフ以来かもしれません。私が実際に見たのは1997年のNHK杯のフリーダンス(Grishuk&Platov 1997 NHK Trophy FD)ですが、「テレビで見た演技」を含めれば、個人的にいちばん好きなのは、1997年ヨーロッパ選手権のオリジナルダンス(Grishuk&Platov 1997 Euro OD)でしょうか。グリシュク&プラトフを漢字二文字で表すなら、「激情」、対してパパダキス&シゼロンは「幽玄」……。いずれにせよ、ただただ度肝を抜かれるばかりでした。

 3月23日のフリーダンス、もちろん全選手の演技を楽しみにしていますが、「どんなパパシゼが見せてもらえるのか」については、期待ですでに心が震えてしまっています。

 

 そして女子のフリー。ちょっと言葉が出てこなくなるほど、素晴らしい試合でした。

 詳しい振り返りは後日じっくりさせていただく予定ですし、優勝したザギトワ、2位のトゥルシンバエワ、3位のメドベージェワの素晴らしさもいつまでも語っていたいのですが、すでに一部メディアで「表彰台ならず」などという文言で報道されている日本人選手3人について、これだけは……。

 トリプルアクセルからトリプルトウのコンビネーションジャンプを見事に決め、2本目のトリプルアクセル以外のジャンプも本当に美しかった紀平梨花。前半に2本のトリプルアクセルという大技を入れても、最後までスケーティングのスピードが落ちず、質が高いままであることも驚くべき才能だと思います。

 スケーティングスキルが全選手の中でトップの評価を受けたのも納得の、大きくてなめらかでスピードのある演技を最後まで貫いた坂本花織。上半身、特にアームの動きにさらにドラマ性が加われば、それとあいまってスケーティングの評価はますます高まっていくものと確信しています。

 ショートプログラムでの、ジャンプの回転不足判定を見事に修正してきた宮原知子。フリーではトリプルルッツからトリプルトウ、そしてダブルアクセルからトリプルトウ、「ふたつめのジャンプとしてトリプルトウを跳ぶ」コンビネーションジャンプを2回実施しましたが、そのどちらとも、ふたつめのジャンプであるトリプルトウのほうが高かった、と客席からは感じられました。

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特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく

『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。

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プロフィール

高山真

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。

 
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