◇反時計回りのツイズルの、スムーズさはもちろんですが、そのスピードと距離! 席の位置が、その距離を確認できる場所でしたから、驚愕するばかりでした。
◇その直後、羽生本来の回転方向とは逆の、時計回りのツイズル。そこから直ちに、エッジを切り替えていくターン。その組み合わせのシャープさ、圧倒的なスピードとスムーズさ。
◇ハイドロブレーディングと、バレエジャンプとアクセルジャンプの融合のようなジャンプの組み合わせも、いつもながらドラマティックです。その直後の、左足のフォアアウトサイドエッジの深さ、そして右足のドアからバックへの切り替えの見事さと切り替えた後の流れの素晴らしさ!
◇イナバウアーの体勢から右足でくるっと小さな円を描くようなターンへ。そのターンの実施も非常にシャープでスピーディ。
◇左足でエッジを切り替えつつリンクの中央へ、そして円を描くようなターン。その際の距離の出方も、プログラム(およびエレメンツ)の終盤であるとはなかなか信じられないほどのクオリティ。
◇足替えのコンビネーションスピン。充分なスピードをキープし、ストレッチも美しいキャメルスピンでの、さまざまなアームの変化。足替えの際に、「あらたな勢い」をまったくつけているように見えないのに、足替え後も素晴らしい回転スピードもキープし続けるのも素晴らしいと思います。
会場で演技を鑑賞すると、あらためて、選手の滑りのスピード、「1歩」が進む距離、進む際の力みのなさやなめらかさがダイレクトに伝わってきます。
テクニカルエレメンツで評価される、ジャンプ、スピン、ステップの要素。それらの要素を、ベースとなるスケーティングといかに融合するか。テクニカルの要素と、そのスケーティングだからこそ描くことが可能な図形(フィギュア)、そのふたつとも、どこまで高めることができるか。
もちろん、現役の競技選手である羽生が勝ちにこだわるのは自然なことです。同時に、「勝ちにこだわること」と「自らのスケート哲学を追求すること」のふたつも、共存させつつギリギリまで高めようとしている姿に感銘を受けるプログラムです。
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。