- リンクの端でほんのふた蹴りした後で、アウトサイドのイーグルからインサイドのイーグルへ。イーグルの距離、スピード、チェンジエッジのなめらかさはもちろん、アウトサイド、インサイド、それぞれの状態でアームの動きにバリエーションをつけ、音楽との同調性をアップさせています。
- そこからピアノの音階の印象的な降下(5音分)と厳密に合わせたエッジワーク。最後の5音目の部分でアームの動きを添える。
「音楽との同調性は、まずエッジワークありき」
という羽生(およびチーム)の哲学を感じる部分です。
- トリプルアクセルの前後にツイズルを入れる驚異のトランジション。もちろんこれだけでも「羽生オリジナル」と呼びたいトランジションの密度の高さなのですが、ジャンプの着氷後に、アームの振りなどによる「勢い」をまったくつけていないにもかかわらずスッとスピードが上がり、そこからツイズルに入るまでの流れが、本当に素晴らしい。拍手の前にためいきがでてしまったほどです。
- そして4回転サルコー前のトランジションから、トリプルアクセル後のトランジションまでが、なんと言いますか、「大きなひとつの流れ」になっているような……。
ミニマムな「蹴り」は入っているのですが、それも「蹴っている」ふうに感じさせない、あくまでも「エレガントで叙情性の高い音楽のニュアンスと合わせていく」というものになっているのを強く感じます。
単に「単独ジャンプ、そしてトリプルアクセル」というふたつの要素を実施したにとどまらない。高難度の要素を高いクオリティで実施しつつ、しかし前面に出てくるのは、
「演技全体として、ひとつの作品として、切れ目やよどみがまったくない」
という印象のほう……。私にとってその印象は、前シーズンよりもはるかに強いものになっています。
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
高山真
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。