平昌オリンピックで優勝し、オリンピック連覇という大偉業をなしとげた羽生結弦。過去に何度か書いていますが、
「競技を続けてくれていること。『この物語には続きがある』と示してくれていること。それに対する感謝しかない」
という思いは変わりません。そこに少しだけ付け加えるなら、
「羽生結弦というスケーターは『この物語には、もっとすごい続きがある』と示してくれている」
という感謝を抱いています。
ショートプログラムとフリーの、両日とも、試合が終わった後に帰路につく観客の皆さまの会話が、耳に入ってきました(念のため申し添えますが、盗み聞きしていたわけではなく、かなりの人混みの中を歩いていましたので、自然に聞こえてきたのです)。
演技の素晴らしさに感動する言葉ももちろんありました。しかしそれよりもはるかに多かったのは、
「客席からは、ケガがないように見えた。足が無事であるように見えた。それが何よりうれしい」
といった会話でした。私の思いもまったく同じでしたので、僭越なのは承知していますが、観客の皆さまと、何か大事な思いを分かち合ったかのような、温かい感情に満たされたのをはっきり覚えています。
何より、体を大切に。
その思いは、羽生結弦のファンの方々全員に共有されている思いであり、それぞれの選手のファンの方々、フィギュアスケートというスポーツのファンの方々、全員に共有されている、ある種の「祈り」なのかもしれません。
スケーターの思いと、ファンの皆様方の思い、その両方にふれることができた、本当に幸せな経験でした。
ほかの選手たちの、心に残った競技プログラム、羽生を含めたエキシビションのプログラムについては、次回に書かせていただけたらと思います。
このエッセイを読んでくださる皆様とも、何か「共有」できるものがあれば……。その思いで、私なりに体調を整え、仕事に尽くしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
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『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。