- 左右それぞれの片足でターンを描きながら進んでいき、4回転サルコー。跳ぶ直前の、鋭さと力みのなさのミックス、ステップの一部として4回転を実施しているような自然さ。
体操界のレジェンド中のレジェンドである内村航平が、
「難しい技を『難しいことをやっている』と見せないように実施するのが理想」
と言っているのを聞いたことがありますが、その言葉は、羽生結弦の技にも通じる真実があると思います。
- フライングからの足替えコンビネーションスピン。スピン自体の回転の速さ確かさはもちろんですが、このスピンの「出」も、私は大好きです。
小さなホップから、氷を蹴っている動作はまったくないのに、スピードをキープしつつどこまでも進んでいきます。そこからほぼダイレクトにステップシークエンスへ。
- ステップシークエンスは要素の実施順に感嘆した箇所を……。
◇ステップシークエンスに入る直前のアームの動きは、前シーズンの世界選手権および今シーズンのオータムクラシックでは「小さくホップしながら、両肩の付け根から腕を左右対称になるように回し、顔の前でピタッと止める」というムーヴでした。それをスケートカナダからは「前傾姿勢から、水泳のクロールのように、左右の腕を交互にかきわける」というムーヴに。
「どんな動きが、このプログラムをよりドラマティックにしていくか」
というテーマに、常に向き合っていることを感じました。
◇イナバウアーから即座に、足を踏み替えてのツイズル。そこから小さな円を描くようにシャープなターン。この組み合わせも、その実施の鋭さも、いつもながらため息がもれるばかりです。
◇リンクの中央で一度、あえて動きを止め、そこから厳密な体重移動だけで再びスピードに乗っていく部分。「スケーティングのスピードは、蹴りや腕の振りで作る『勢い』によって出すものではない」という明確な哲学をここにもが感じます。
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。