特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく 第17回

NHK杯の羽生結弦が見せてくれた「もっとすごい」物語の続き

高山真

 羽生のリカバリーの瞬時の判断能力の高さ、およびその判断を実行に移す能力の確かさ。そのふたつに、衝撃に近い感動を覚えた最初の経験は、2017年四大陸選手権のフリー(2017 4CC FS)でした。ふたつめの4回転サルコーが2回転になった時点で、その後の「4回転トウ1本、トリプルアクセル2本、トリプルルッツ」というジャンプ構成を、「4回転トウ2本、トリプルアクセル2本」へと変更することを、演技を続けながら決断し、見事に成功させたのです。

 平昌オリンピックのフリー(2018 Olympics FS)の演技後半、2本目の4回転トウは、シングルオイラー(当時は「ハーフループ」という呼称)からトリプルサルコーという3連続ジャンプの予定でしたが、4回転トウの着氷でこらえた形になったため、その後にジャンプをつけられず。そして次のトリプルアクセルの後に、ハーフループとトリプルサルコーを組み入れる、「ぶっつけ本番」のリカバリーを成功させました。あの光景は、その驚きは、今でもくっきり記憶に焼き付いています。

 

  • リンクを横断するばかりか、そのままどこまでも進んでいけそうなほどのレイバックイナバウアーと、姿勢の見事さとスピードを両立させたハイドロブレーディングを中心にすえたコレオシークエンス。ムーヴズ・イン・ザ・フィールドのバリエーションの豊かさと、それぞれのクオリティ。このコレオシークエンス中、私はずっと拍手をしていたような気がします。

 

  • 演技ラストのふたつのコンビネーションスピン。疲れが限界にきている時間帯でも、まったくぶれない回転軸、ポジションの変化ごとにスッと上がるスピードが素晴らしい。

 

 演技直後、羽生がうなずいている姿が客席からうかがえました。

「本人が納得している演技ができたのなら、観客である私は、それ以上望むものはない」

 そう強く感じながら、私は立ち上がって拍手を送っていました。

 そして優勝インタビューで、私は先ほど書いたように、

「羽生結弦というスケーターにとって、『おいてきてしまった荷物を取りにくる』ことは、本当に重要な意味を持っているのかもしれない」

 という感慨を抱いたのです。

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特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく

『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。

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プロフィール

高山真

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。

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