特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく 第17回

NHK杯の羽生結弦が見せてくれた「もっとすごい」物語の続き

高山真

 何度も書いていることですが、フィギュアスケートの本来の成り立ち、本来の意味は「氷の上に図形(フィギュア)を描く」こと。

 男子シングルの現役選手でその「意味」にもっとも深いところで向き合っているのは、私は羽生結弦であると思います。

 

  • ドラマティックなピアノの盛り上がりとともに、リンク中央に向かってツイズル(途中でアームのポジションを変えていきます)。そして4回転トウからのコンビネーションのトランジションへ。

 リンクの短辺部分を往復で使用しつつ、俯瞰では大きな「逆Sの字」を思わせる軌道を描いて実施するエッジワークと、リンクの長辺部分をやや直線的に使用するエッジワークを組み合わせてから、4回転トウ~トリプルトウのコンビネーションジャンプ。

 個人的には、リンクの長辺部分を使うエッジワークの部分で、エッジの前後の切り替えの際、「時計回りの回転で切り替える/反時計回りの方向で切り替える」のどちらも入っている緻密さに、あらためて感激しました。

 そして、「滑っていく」というよりは「踊っているうちに、いつの間にかここまで進んでいる」というイメージの、スケーティングのなめらかさにも……。

 4回転トウの着氷がやや沈み込んだため、瞬間的な判断でトリプルトウは両手を上げた状態ではなく、胸のあたりでキュッと引き締めるオーソドックスなジャンプに変更。オーソドックスなトリプルトウそのもののクオリティをキープして、コンビネーションジャンプ全体の出来栄えも落とさない、見事な判断だったと思います。

 

  • コンビネーションジャンプ後の、イーグルのトランジションから、直ちにトウアラビアンに入ってフライングキャメルスピン。そしてそこから足替えのシットスピンにいくまでの、まったく隙間のないトランジション。

 わずかでもゆるみが生まれたら全体の流れを止めかねない……。ここも非常に集中が要求されるパートだと思います。

 

  • ステップシークエンスは要素の実施順に、心に残る箇所を綴ります。

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特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく

『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。

関連書籍

羽生結弦は捧げていく

プロフィール

高山真

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。

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NHK杯の羽生結弦が見せてくれた「もっとすごい」物語の続き