特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく 第17回

NHK杯の羽生結弦が見せてくれた「もっとすごい」物語の続き

高山真

◆フリー

 結果から先に記述することをお許しください。羽生はこのフリーでも見事な演技を披露し、優勝を果たしました。優勝直後のキス&クライでのインタビューで、優勝の感想を聞かれ、羽生はどこかホッとしたような、何か大きな荷物を下ろしたかのような穏やかな声で、

「いやー、緊張しました。本当に……やっぱり日本で滑りたかったんで、ずっと」

 と答えていました。

 その声にこもる万感に、こちらのほうがグッとしてしまったほどです。

 スケートカナダで優勝したとき、松岡修造氏とのインタビューでは、開口一番、

「やっとスケートカナダで(優勝を)獲ることができて、本当に、安心したっていう気持ちでいっぱいです」

 と言っていた羽生。今シーズンのふたつのグランプリシリーズの優勝インタビューにふれ、私は、

「大会の大きさとか、そういうものは関係なく、羽生結弦というスケーターにとって、『おいてきてしまった荷物を取りにくる』ことは、本当に重要な意味を持っているのかもしれない」

 と、深い感慨を抱いたのです。

 演技冒頭の、深く腰を落としたポジション。客席からは、足がピタッと固定されていないというか、ひざが少し震えているようにも感じました。緊張もあったかもしれません。しかしキス&クライでのインタビューからあふれてきた思いにふれて、

「単に『この大会で勝ちにいく』以上の、期するもの、心に賭けるものがあったのだ」

 と、あらためて羽生の「意志」の強さや深さに感動した、と言いますか……。

 ただただ、本当に素晴らしい演技でした。

 

  • 冒頭の4回転ループ。リンクの短辺部分を往復するように、左右の足を片足ずつ切り替えるステップやターンを組み込み、踏切直前に、右足を体の内側にグッと踏み込んでから、踏み切る足である左足に体重を乗せ換えて跳ぶ。この密度の高さには、いつもながら驚くばかりです。

 

  • ループ着氷直後、両ひざを曲げるイーグル(ベスティスクワットイーグル)へ。その後、両足とも氷から一瞬も離すことなく、両足にかける体重のバランスを変えることだけで推進力を得て、再びベスティスクワットイーグルへ。氷を蹴る動作が一切ない、そして、両足の複雑なムーヴが一瞬にして後半のイーグルのポジションにピタッと入る。何度見ても見事です。また、そのすさまじいばかりのスピードにも目を見張ります。

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特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく

『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。

関連書籍

羽生結弦は捧げていく

プロフィール

高山真

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。

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