今回の全日本選手権の後、私が思い出していた羽生の言葉があります。
平昌オリンピックが終わった直後、日本記者クラブで開かれた会見での出来事です。羽生結弦は、「自分が今いるフェイズ(段階)」を訊かれ、
「徐々に徐々に、なんて言ったらいいか分からないけれど、さなぎが羽化してきて、ゆっくりゆっくり羽を伸ばしている段階、それが今の自分かなと思っています」
と答えていました。
グランプリファイナルのフリーで4回転ルッツに成功し、同じくグランプリファイナルの公式練習中には4回転アクセルにトライする姿を見せました。その4回転アクセルは、回転こそやや足りませんでしたが、
「想像を絶するほどの遠心力がかかっていることが信じられないほど、体幹が安定し、回転軸がしっかりしている」
ことに何より驚かされたものです。「この回転軸の真っすぐさ、細さと速さがあれば、きっと成功する日が来る」と確信できるほどに。
もう一度言います。今シーズン、羽生結弦は、
「過密スケジュールでも大きなケガなくここまで来て、かつ、4回転ルッツの復活、4回転アクセルの成功に大きな期待を持たせてくれた」
という場所にまで来てくれている。そして、
「そんな場所に来ていてもなお、羽生結弦は『さなぎから羽化する』直前の段階にいるように感じられる」
ことに、私は尊敬の念を抱きます。
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。