さなぎから蝶へ。しかしアスリートは、さなぎの時期にずっと休んでいることができません。誰もが、さなぎのままで努力を続けています。鍛錬を続けながら、羽化の時期を待っている。もしかしたら、今シーズンの序盤に苦しい試合を続けていた宇野昌磨も、そんなふうに羽化の時期を待っていたのかもしれません。
これも何度も書いていることですが、フィギュアスケートファンの私にとって、羽生結弦は「好きなスケーターのひとり」という以上に「絶対的に信頼しているスケーターのひとり」という位置づけです。
羽生結弦の「羽化」という言葉を借りるなら、羽生に文字通りの「新しい羽が生えてくる」のを、ただ待っています。それをずっと成し遂げてきたスケーターですし、これからもそれができるスケーターであることを私は確信しているのです。
羽生自身がもっとも強く待ち望んでいるはずの「羽化」の瞬間。誰よりも羽生結弦のために、その時が来てほしい。ですから、私はただただ、これ以上のケガがないことだけを祈りつつ、これからの羽生結弦のスケートを心待ちにしたいと思います。
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『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
高山真
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。