今までに何度も書いていることですが、平昌オリンピックで連覇を果たし、それでも競技スケーターとしての活動を続けてくれている羽生結弦に対して、私は感謝の気持ちしか抱いていません。そして一番に望むことは「本人が心に描く『未来』のために、これ以上のケガがないように」。これはずっと変わりません。
その大前提のもとに言わせていただくと、私は全日本選手権の後、あたらめて、
「スケーターたちは、試合のたびに、ミリ単位の高さや軸のズレ、0.1秒よりもわずかなタイミングのズレと戦っているんだ」
と、尊敬の念を強くしたのです。
6分間練習のときにはきれいに跳べていたジャンプが、本番で失敗することもある。失敗しても容赦なく音楽は続いていくし、演技を続けていかなくてはいけない。
そして羽生結弦は「決して万全とはいえない調子であっても、予定のジャンプを、前後のトランジションまでおろそかにしない形でトライし続けている」ように見えました。
このトライこそが、次の扉を開く鍵になる。私はそう確信しています。
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
高山真
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。