特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく 第20回

グランプリファイナル、羽生結弦の『ノッテ・ステラータ』に見た希望、各選手に見た光

高山真

 イタリア・トリノで開催されたフィギュアスケートのグランプリファイナル。前回のエッセイで羽生結弦のチャレンジから受けた感銘を綴りました。今回は男子シングル、女子シングル、ジュニア男子シングルと、エキシビションの羽生結弦から受けた感銘を綴らせていただければと思います。

 

■男子シングル

  • ネイサン・チェン

 フリーの『ロケットマン』、冒頭の4回転フリップからトリプルトウのコンビネーションのジャンプから度肝を抜かれました。

 ふたつのジャンプそれぞれの大きさ、空中の回転軸の確かさと空中姿勢の美しさ、そして「空中のかなり高いところで回りきっているため、回転を止めて着氷姿勢に入る」ことがはっきり見てとれる余裕。すべてがすさまじい。4回転のフリップ、そして4回転からただちに跳ぶ2番目のトリプルトウ、その両方をここまでのゆとりを見せて跳ぶのは驚異的としか言えません。そして、ジャンプのタイミングを音楽のアクセントにぴったりと合わせていく、プログラムデザインの妙。

 シニアデビューの2016-17年シーズンから、高難度のジャンプを跳ぶ選手でしたが、ジャンプそのものの完成度も、そしてジャンプの前後につけるトランジションの密度も、シーズンごとに目覚ましく成長していると感じます。

 4回転ルッツの着氷時の腰の位置の高さ(これもジャンプを空中の高いところで回りきっているからこそ可能な姿勢です)、そして着氷からイーグルへとつなげる流れの美しさ。

 その後のジャンプも、「助走して、跳ぶ。また助走して、跳ぶ」感がますます薄くなっているのを感じます。

 イーグルから4回転トウ~~シングルオイラー~トリプルサルコーの3連続ジャンプを実施する。

 ネイサンにとっては必ずしも「得意」とは言えないはずのトリプルアクセルからほぼダイレクトにステップシークエンスに入る、非常にチャレンジングなプログラム構成。

 4回転サルコーも4回転トウも、プログラム終盤だとは信じられない高さ。サルコーの着氷後の、流れのあるエッジワークにも、「より密度の高いプログラムを」という明確な意志、そしてそれを可能にする体力とスケーティングスキルの向上を感じます。

 そして、これだけのジャンプ構成にもかかわらず、「このプログラムのメインはジャンプではなく、ここ」と多くの方々が思うかもしれない、コレオシークエンス。

 かつて私はネイサン・チェンについて、「現役スケーターの中で、ここまでバレエを叩き込んだ体の動きを実現できるのは特筆すべきこと」と書きました。最初に目を見張ったのは2016-17年シーズンのショートプログラム『海賊』ですが、そのときは「スケートは止まった状態の、要所要所のポーズ」にその影響を強く感じました。それが今回のコレオシークエンスで「スケーティングと、バレエを叩き込んだ動きを両立させる」という、ひとつの回答を見たような思いがしました。

 アームの動きひとつとっても、「ひじを支点にして動かすのか/肩口を支点に動かすのか」が、テレビ画面からでも明確にわかる。それがエッジワークと融合したときに、ものすごい吸引力を放つのです。ネイサン・チェンの4分間、素晴らしい時間でした。

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特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく

『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。

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プロフィール

高山真

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。

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