ウーマンラッシュアワー村本の「考える人」 第2回

沖縄の問題が日本人にとって“他人事”であり続ける理由

田原総一朗×村本大輔

村本:沖縄の米軍基地問題への「無関心」も気になります。

田原:基地問題でひとつ考えないといけないのは、「沖縄はいつから基地反対になったのか」ということ。実は、小渕総理時代、普天間を辺野古に移設しようと、小渕内閣で官房長官を務めた野中広務たちが沖縄の全部の市を回って説得して、沖縄は辺野古にOKしたんですよ。それで小渕は沖縄に感謝を込めて、先進国首脳会議(サミット)を沖縄でやると決めた。その前に亡くなってしまったけどね。

では、いつから反対になったのか。ひとつのきっかけは、鳩山由紀夫。彼が普天間基地の移設先について「最低でも県外」と言ったこと。それで沖縄は「あ、県外行けるんだ。それじゃ辺野古移設は反対だ」となった。鳩山は、県外ということで鹿児島の徳之島に移そうと思っていたんだけど、失敗して、米軍と妥協して辺野古と言い出した。それで沖縄に行ってボロクソに言われたんですが、そのときから沖縄は辺野古に反対なんです。

しかも、鳩山由紀夫の問題があった後、「辺野古反対」を前面に押し出した翁長さんが県知事になったのに、安倍首相は翁長さんに会おうとしなかった。これで沖縄と政府の対立が決定的になったんですね。

村本:そもそも、米軍基地の問題って、沖縄の問題というよりも「日本の主権の問題」のような気もします。戦後70年も経っているのに、日本がアメリカから主権を取り戻せないことのほうが問題なんじゃないですか。

田原:日本は主権なんか持ってない。というか、実は持ちたくないんだよ。日本は戦後70年以上、平和だった。戦争に巻き込まれなかった。でも、これは憲法9条のおかげだと思ってる日本人はほとんどいない。米軍が日本を守ってくれていたからだと思っている。

昔、竹下登という総理大臣がいて、僕は竹下に「日本には自衛隊という組織がある。だけどこれは戦えない軍隊だ。こんなんでいいのか?」と聞いたら、竹下は「だから平和なんだ」と言ったんだよね。

村本:「自衛隊は戦えない軍隊だから平和」ってどういうことですか?

田原:軍隊というのは「戦えれば戦っちゃうもの」なんですよ。例えば、太平洋戦争が始まる時も、本気でアメリカと戦って勝てると思った日本人は誰もいなかった。それで天皇が、当時海軍のトップだった軍令部総長の永野修身に「こんな戦争していいのか?」と聞いたところ、永野は「2年たったらもう戦えません。石油がなくなるから、戦うなら早くやりましょう」と言った。つまり、軍隊というのは、勝つか負けるかは関係なくて「戦えれば戦っちゃう」ものなの。

日本は歴代総理、田中角栄から小泉純一郎に至るまで「自衛隊は戦えない軍隊だからいいんだ」と考えていた。「アメリカに守ってもらえばいいんだ」とね。その代わり、守ってもらう以上は対米依存、対米従属は仕方がない、だから主権なんか求めなかった。

ところが、80年代の後半になり、冷戦が終わったときに、日本で2つの意見が出てきた。ひとつは「これまで最大の脅威だと思われていたソ連が敵ではなくなったのだから、日本は対米従属ではなく自立すべきだ」という意見で、主に野党、新聞では朝日が主張した。もうひとつが「冷戦終わったからアメリカが日本を守る責任がなくなった。責任がなくなったから日本はアメリカに見捨てられる、米軍が日本から出ていく可能性がある。それは困るから日本は何としても対米関係を強化しなければいけない」という意見。これを言い出したのが自民党と読売新聞。

結局、日本政府は、アメリカとの関係をどんどん強化していくことにした。宮沢喜一がPKO協力法を作って自衛隊をカンボジアに送り、それから小泉がアフガン戦争で海上自衛隊の給油艦をインド洋に派遣、さらにイラク戦争で陸上自衛隊をイラクに派遣……と、どんどんアメリカとの関係を重視した。そうした流れの、いわば最後の仕上げをしたのが、安倍政権が安全保障関連法案に盛り込んだ「集団的自衛権の行使容認」ですよ。

村本:僕は非武装中立がいいということを『朝生』で言いました。その気持ちは今も変わってない。

田原:僕も日本は武器を持たないほうがいいと思ってる。ただ、非武装中立を言っている党はどこもないんだよ。共産党も言ってない。だから、ここでまた疑問を持たなきゃいけないんだよ。「なんでなんだ?」とね。

村本:そうそう、本当は僕、その議論をしたいんですよ。「そんなこと非現実的だ、お前は何にも知らない、わかってないから、そういうお花畑みたいなことが言えるんだ!」って頭ごなしに決めつける人たちと……。

 

取材・文/川喜田研  撮影/藤澤由加

第3回「「権力を疑う」のがジャーナリズム。 報道も芸人も「無難」じゃツマラナイ!」につづく

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ウーマンラッシュアワー村本の「考える人」

お笑い芸人・ウーマンラッシュアワーの村本大輔氏が、毎回、有名・無名のゲストを迎えて、政治・経済、思想・哲学、愛、人生の怒り・悲しみ・幸せ・悩み…いろいろなことを「なんでそんなことになってるの?」「変えるためにはどうしたらいいの?」とひたすら考えまくる連載。

プロフィール

田原総一朗×村本大輔

 

田原総一朗

1934年、滋賀県彦根市生まれ 早稲田大学文学部卒業。岩波映画製作所 テレビ東京を経て、77年にフリーに。現在は政治・経済・メディア・コンピューター等、時代の最先端の問題をとらえ、活字と放送の両メディアにわたり精力的な評論活動を続けている。テレビ朝日系で87年より『朝まで生テレビ』、89年より2010年3月まで『サンデープロジェクト』に出演。テレビジャーナリズムの新しい地平を拓いたとして、98年ギャラクシー35周年記念賞(城戸賞)を受賞した。2010年4月よりBS朝日にて「激論!クロスファイア」開始。02年4月より母校・早稲田大学で「大隈塾」を開講、未来のリーダーを育てるべく、学生たちの指導にあたる。05年4月より17年3月まで早稲田大学特命教授。著書に『日本の戦争』(小学館)、『塀の上を走れ』(講談社)『AIで私の仕事はなくなりますか?』(講談社+α新書)他多数。

村本大輔

1980年、福井県おおい町生まれ。小浜水産高校中退後、NSC入学、2000年デビュー。2008年に中川パラダイスとウーマンラッシュアワーを結成。2013年、THE MANZAI 優勝。昨年末のTHE MANZAI で、原発・沖縄・東京オリンピック・熊本地震などをテーマにしたネタが話題になり、以後、災害被災地や沖縄をはじめ全国で独演会を開催。今年のTHE MANZAIでも政治ネタを取り上げ注目を集めた。

 

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