ウーマンラッシュアワー村本の「考える人」 Round2-1

狩猟を通して見えた「生きる」ということのリアル

幡野広志×村本大輔

村本:僕は福井県おおい町という原発の町出身なんですけど、原発の問題についてテレビで話したときに、コメンテーターの人たちは「地元は原発で飯食ってんだろ」とか「原発は危険だから、ともかくなくせ」とか……、原発賛成派も反対派も、みんな第三者的な発言ばかりで、誰からも「原発の町」で暮らす当事者の声や生活を想像して、その立場に立ったような言葉がなかったんです。それってまさに当事者の気持ちにフォーカスするセンスがないというか…。

幡野:本当に全てを分業化しちゃったんでしょうね。だから、自分のこととして感じることができない。

村本:そうそう、「自分の事」だと感じてない。それは、例えば沖縄の基地問題について語るときも同じで、本土の人は平気で「沖縄に米軍基地があるのは国防のため」って口にするんですが、そのために沖縄の人たちが背負わされているモノとか、沖縄の人たちの気持ちなんて考えないし、自衛隊の事だって「国防だから自衛隊がやるのが当たり前」と思ってるから、「自衛官は戦うのが仕事なんだから死んでもしょうがない」と言えてしまう。

でも、「国防のため」なら本当は日本人全員の問題ですよね。原発で発電した電気を使っているのもそう。同じように自分が毎日の食事で肉を食べているのに、みんなそれを「当たり前のこと」と思い込んでいて、そのことに対する感謝の気持ちがどこにもない。そういうのもみんな、今言われた「分業の負の側面」ですねよ……。本当は誰かのおかげで生きているくせに、その「誰か」に対する「ありがとう」という気持ちをすっかり忘れている。

幡野:生き物を殺して、皮をはいで、解体して、その肉を食べて…と全部やると、生きるための「リアル」、生きるために何をしなければいけないかというのが分かるんです。でも、みんながそれをやらなければいけないとなったら、とても無理。だから、人間は生き物を殺すという罪悪感を薄めるためにも分業する仕組みを作ったんだと思うんです。分業にして、殺す罪悪感、解体する罪悪感、食べる罪悪感を見えないようにしないと、みんなが自分で殺して、捌いて、加工して……と、全部を背負ったらしんどすぎますからね。

プラス:確かに一人で全部背負ったらしんどいと思うんですけど、幡野さんは震災で流通が途絶えて初めて、肉の源流の部分に気がついた。村本さんは普段いろんな疑問を持って、現場まで行って、そこで話して、いろいろな「気づき」に繋げている。幡野さんがやっていることも、村本さんがやっていることも、実はこの「分業」によって失われ、バラバラになってしまった「リアル」の手触りを、取り戻す作業のように感じます。

幡野:「いただきます」って直接的に動物や植物の「命をいただきます」という意味だそうですけど、それを知っている人は少ないですよね。そして、生産した人、食べ物を作ってくれた人、料理を運んでくれた人、その料理に関わった人全員にありがとうの気持ちを込めるのが「ごちそうさま」の意味。今、「いただきます」と「ごちそうさま」は、もうポーズになっている。それもやっぱり分業の悪い面というか。戦争も誰かがやってくれると思って、リアリティがない人が多いでしょう。

村本:僕は尖閣諸島が中国に攻められたら、土下座して差し出すってテレビで言ったんですよ。すると「君は日本人として失格だ」と言われましたけど、そういうコト言ってるヤツは全員「ネットの防空壕」の中に隠れてるだけだと言ってやりました(笑)。

幡野:ネットの防空壕(笑)。でも、確かに安全圏から、何もリスクがないところから言ってるだけの人なんですよね。僕、鉄砲を撃って、その威力を目の当たりにしているから、あんなの、人に向かって撃ちたくはないですよ。

村本:その感触もリアルなんですね。あと臭いとか、解体したときの内臓がバーって出てきたときの感じとかも……。

幡野:そうです。内臓から出る臭いも、例えば、戦場で死んだ人間とかからも、同じものが出るだろうし。

村本:きっと、その感覚が大事なんだけど、普通の人はそれを味わう機会なんて、ほとんどないじゃないですか。でも、実は、そういう罪悪感を感じることが、リアルを感じるコトでもあって、自分の思考を動かすきっかっけになる気がするんです。

幡野:そうですね。やっぱり考えることには繋がっていきますよね。

 

取材・文/川喜田研  撮影/藤澤由加

第2回 「教育」だと言って怒る大人が子どもをダメにする は3月29日に配信の予定です。

 

幡野さんのはじめての写真集。「Nikon Juna21」を受賞した「海上遺跡」ほか、「狩猟」「家族」をテーマに撮影した3作品を収録。

 

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 第4回
Round2-2  
ウーマンラッシュアワー村本の「考える人」

お笑い芸人・ウーマンラッシュアワーの村本大輔氏が、毎回、有名・無名のゲストを迎えて、政治・経済、思想・哲学、愛、人生の怒り・悲しみ・幸せ・悩み…いろいろなことを「なんでそんなことになってるの?」「変えるためにはどうしたらいいの?」とひたすら考えまくる連載。

プロフィール

幡野広志×村本大輔

幡野広志

1983年、東京生まれ。2004年、日本写真芸術専門学校中退。2010年から広告写真家・高崎勉氏に師事、「海上遺跡」で「Nikon Juna21」受賞。2011年、独立し結婚する。2012年、エプソンフォトグランプリ入賞。2016年に長男が誕生。2017年多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。著書『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)。作品集『写真集』(ほぼ日)。

村本大輔

1980年、福井県おおい町生まれ。小浜水産高校中退後、NSC入学、2000年デビュー。2008年に中川パラダイスとウーマンラッシュアワーを結成。2013年、THE MANZAI 優勝。昨年末のTHE MANZAI で、原発・沖縄・東京オリンピック・熊本地震などをテーマにしたネタが話題になり、以後、災害被災地や沖縄をはじめ全国で独演会を開催。今年のTHE MANZAIでも政治ネタを取り上げ注目を集めた。

 

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