ウーマンラッシュアワー村本の「考える人」 Round2-4

「いかに生きるか」は「いかに死ぬか」。安楽死を考える

幡野広志×村本大輔

プラス:前回、幡野さんから「がんになるのも悪くない」という話がありましたが、一方でシビアな現実として、終末期のがんでは、患者さんが耐え難いほどの苦痛と向き合う場合も多いですよね。そのために、近年は、延命ではなく、痛みのコントロールやケアを行う「緩和ケア治療」の重要性にも注目が集まっているわけですが……。

幡野:僕のがんの場合、最後は悲惨ですよ。自分の病名をネットでググったんです。で、原因とか治療方法とか、だいたい何年ぐらい生きられます……といった情報は出てきたんだけど「死に方」は出てこなかった。それで自分が死ぬときに、実際はどうなるか知りたくて、同じ病気で亡くなったご遺族の方をツイッターで探したんです。

村本:ちなみに、幡野さんは何のがんでしたっけ?

幡野:多発性骨髄腫っていう血液のがんなんですよ。で、僕と同じがんで亡くなった患者さんのご遺族に会いに行って、どんな最期を送られたのか話を聞いたら、このがんって骨がもろくなる病気で、最後の方はベッドで寝たきりになるんだけど、ただ寝ているだけでも、自分の体重で骨折したりする。それで、嘔吐とかも酷くて、胃液だけじゃなくて、胆のうから緑色の液体を吐いたりするんです。

そうやって、いろんな方とお会いして、同じ病気の人たちの「最後の姿」の話を聞いたときに、自分はそういう状態になりたくないし、子どもや妻にもそんな姿を見せたくないなと思ったんです。自分だけじゃなく、それを見た家族の方がトラウマ抱えてるケースがすごく多くて。だったら自殺した方が早いなと思ったりもしました。ところが、次に家族が自殺したご遺族にお会いしたら、こちらもトラウマをすごく抱えていて……。だから、安楽死しかないと思ったんですよね。

村本:幡野さん、すぐ現場行きますね(笑)。

幡野:うん、すぐ現場行く。直接聞かないと、ネットの情報だけじゃ分からないから。

 

プラス:安楽死を否定する人は、そういう苦しみも含めて、生を全うするのが人生だという理屈なんだと思うのですが、逆に「人工的な生」つまり、機械をつけてでも生き続けることを患者に強要している現実がある。そういう、人工的な生は認めるのに、人工的に死を選ぶことは認めないのは、果たしてどうなんだろうっていうのは、確かに考えさせられますね。

幡野:海外の安楽死を認めている国では「安楽死の条件」というガイドラインが決まっていて、まず治らない病気であること、本人に耐えがたい苦痛があること、家族の同意があることの3つが基本です。ちなみに、海外では認知症とか摂食障害くらいのものでも安楽死をする方はいるんですが、日本ではきっとがん患者に限定されるでしょうね。難病の患者さんとお会いすると、もう、死にたいと言われる方は多いですが、そういう人に対して、僕は、安楽死は確実に救いになると思っています。

村本:生きることと同時に死ぬことも自分の選択肢として持てること……。

幡野:そう、生き方って選べるじゃないですか。だったら死に方も選べた方がいいと思います。病院で寝たきりになってチューブだらけになるのも生き方、死に方のひとつだけど、そうじゃなくて、もうちょっと死に方には選択肢があった方がいいと僕は思う。

自分が患者になって思うことは、自分は死ぬけれども、妻と子どもは生きる。だから、妻と家族に対して、自分の死で不幸になって欲しくないし、それをトラウマにして生きて欲しくない。遺族が生きやすくするには、患者が望んだ死を選ぶこともひとつの選択肢だし、逆に、患者が望まない死を選んだときに、遺族は後悔すると思うんです。だから、双方にとって安楽死はメリットがある。患者は楽になるし、遺族は楽にしてあげたという満足感もある。

1年前に入院したときに4人部屋にいたんだけど、100歳ぐらいのおじいちゃんが、ずっと水をくれって叫んでるんです。でも、水を飲ませると誤嚥(ごえん)性肺炎で死んじゃうから、病院は水を飲ませない。もちろん、代わりに点滴とかで必要な水分を与えてるんだけど、正直、水を与えようが与えまいが、1カ月後には生きてないだろうという患者さんです。そのとき「これは何が正しいんだろう」と考えたんです。水を飲ませて肺炎で亡くなったら訴訟になるかもしれない。だから、病院は水を飲ませないんだけど、そのためにお爺ちゃんは「水を飲みたい」という小さな望みすら叶えてもらえない……。これが100歳ぐらいまで生きた男の最期かと思うと、すごく胸が痛くなったんですよね。

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 Round2-3
ウーマンラッシュアワー村本の「考える人」

お笑い芸人・ウーマンラッシュアワーの村本大輔氏が、毎回、有名・無名のゲストを迎えて、政治・経済、思想・哲学、愛、人生の怒り・悲しみ・幸せ・悩み…いろいろなことを「なんでそんなことになってるの?」「変えるためにはどうしたらいいの?」とひたすら考えまくる連載。

プロフィール

幡野広志×村本大輔

幡野広志

1983年、東京生まれ。2004年、日本写真芸術専門学校中退。2010年から広告写真家・高崎勉氏に師事、「海上遺跡」で「Nikon Juna21」受賞。2011年、独立し結婚する。2012年、エプソンフォトグランプリ入賞。2016年に長男が誕生。2017年多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。著書『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)。作品集『写真集』(ほぼ日)。

村本大輔

1980年、福井県おおい町生まれ。小浜水産高校中退後、NSC入学、2000年デビュー。2008年に中川パラダイスとウーマンラッシュアワーを結成。2013年、THE MANZAI 優勝。昨年末のTHE MANZAI で、原発・沖縄・東京オリンピック・熊本地震などをテーマにしたネタが話題になり、以後、災害被災地や沖縄をはじめ全国で独演会を開催。今年のTHE MANZAIでも政治ネタを取り上げ注目を集めた。

 

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「いかに生きるか」は「いかに死ぬか」。安楽死を考える