ウーマンラッシュアワー村本の「考える人」 Round2-3

「自分」が見えてくるから、がんになるのも悪くない

幡野広志×村本大輔

幡野:僕、34歳でがんになっちゃったんですけど、がんになって初めて分かったことっていっぱいあったんです。がん患者って、毎年、日本で年間100万人ぐらいが罹患してて、毎年40万人が亡くなっているんです。当然、死因のずっとトップです。つまり、10年間で1000万人ががんになって、400万人ぐらい死んでるのに、実はみんな、がんのこと全然知らない。

村本:がんの話をちょっとしてください。いい部分と、悪い部分と。

幡野:悪い部分は、がんになる前に、仕事とか友達とか、知り合いがいっぱいいますよね。その95%の人と僕は縁を切ったんです。これは僕だけじゃなくて「がんになって人間関係を整理した」っていう人はすごく多い。がんになったら、人間関係の整理が必要になっちゃうんですよ。

まわりの人は、がんになった人に「何とかして助けてあげたい」「何とかしたい」って思うから、安易な励ましとかがいっぱい来るんです。「奇跡は起きるよ」とか。僕のことを大学病院の教授が診てくれているんですけど、その先生が「治らない」って言ってるのに、どこぞの知らない人が「必ず治るから」とか言い出すんです(笑)。僕はそういうのを「何言ってんだ、お前は!」と思いながら聞いてるんだけど。

おそらく、そういう言葉って「僕のために言っている」のではなく、「そう言っている自分のため」なんですよね。それはたとえば「その場の気まずさを和らげたい」とか「それを言うことで自分が楽になりたい」みたいな気持ち。ですから、よく「患者さんに寄り添う」ってことを言いますけど、それは「寄り添ってくれている」んじゃなくて、「自分に寄り添わせよう」としているんです。そういう人が多くて、それがすごくストレスですね。これ僕だけじゃなくて、たぶん100万人の患者さんの多くが経験してることだと思います。

村本:自分の都合で「患者を自分に寄り添わせようとしている」かぁ。

幡野:それから、よく、タレントさんががんになると前向きな言葉をツイッターとかウェブで発表しますよね。「必ず治して帰ってきます」とか。それに対してみんなが応援する。前向きな患者さんと、それを応援する健康な人。傍目にはちょっと美しいけど、ああいうのって、僕は胸が痛くなるんです。実際に患者になってみると、前向きなこと言う気力なんかないし、死んじゃうのに「必ず治りますから」なんてウソ言いたくないし……。これもやっぱり「患者の心に寄り添う」のではなくて「患者を寄り添わせている」。

村本:見ているオーディエンスに。

幡野:そうそう、オーディエンス。現実には、僕自身もそうでしたけど、正直、がん患者で自殺を考える人って多いです。そりゃ、やっぱり、美しい世界じゃない。それこそ「究極のリアル」に直面しますから。

村本:確かに「究極のリアル」ですよね……。

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ウーマンラッシュアワー村本の「考える人」

お笑い芸人・ウーマンラッシュアワーの村本大輔氏が、毎回、有名・無名のゲストを迎えて、政治・経済、思想・哲学、愛、人生の怒り・悲しみ・幸せ・悩み…いろいろなことを「なんでそんなことになってるの?」「変えるためにはどうしたらいいの?」とひたすら考えまくる連載。

プロフィール

幡野広志×村本大輔

幡野広志

1983年、東京生まれ。2004年、日本写真芸術専門学校中退。2010年から広告写真家・高崎勉氏に師事、「海上遺跡」で「Nikon Juna21」受賞。2011年、独立し結婚する。2012年、エプソンフォトグランプリ入賞。2016年に長男が誕生。2017年多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。著書『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)。作品集『写真集』(ほぼ日)。

村本大輔

1980年、福井県おおい町生まれ。小浜水産高校中退後、NSC入学、2000年デビュー。2008年に中川パラダイスとウーマンラッシュアワーを結成。2013年、THE MANZAI 優勝。昨年末のTHE MANZAI で、原発・沖縄・東京オリンピック・熊本地震などをテーマにしたネタが話題になり、以後、災害被災地や沖縄をはじめ全国で独演会を開催。今年のTHE MANZAIでも政治ネタを取り上げ注目を集めた。

 

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「自分」が見えてくるから、がんになるのも悪くない