対談

「意味をつくる」仕事とは何か【第2回】

対談 佐藤可士和×山口周

佐藤可士和×山口周

衝動や熱量のない仕事はAIに代替される

 

佐藤 物語を構築する力とともに、もう一つ大事なのは、やはり思考のベースとなる知識ですね。僕自身、広告をやる前に、学生時代には散々、アートの下地を学んでいるわけです。たとえば現代美術の文脈でいえば、マルセル・デュシャンの名前と作品を知っているかどうかは、とても大きい。デュシャンは便器を美術館に展示することで、アートにイノベーションを起こしました。そのことを知っていれば、コンセプトチェンジのダイナミズムを理解することできます。

山口 知識、教養がない場合、デュシャンの作品は、「ただの便器じゃないか」といった感想で終わってしまいますね。

佐藤 そうじゃなくて、既製品の便器をアートに転換した、そのコンセプトが重要なわけです。その意味で、美術史を学ぶことは役に立ちますね。それこそアートの歴史とは、「いいコンセプト」の宝庫ですから。

山口 美術史とはすなわち、ザ・コンセプトショーですよね。

佐藤 まさしく、コンセプトチェンジというゲームとソリューションの見本市。しかも、そこにはいいコンセプトしか残っていない。たとえば19世紀末の印象派の登場は、絵画が王侯貴族、教会のものから大衆に開放されたという、当時の時代転換のダイナミズムを反映しています。

山口 そこにはテクノロジーの変遷も関わっていますよね。それまでの絵画は、本物そっくりに描くことで価値を与えられてきたけれど、写真というテクノロジーが出てきたことで、その価値が崩壊した。そんな時に印象派のブームが湧き起こった。

佐藤 その流れでいうと、今、自分が生きている現代では、「ポップ」「マス」というキーワードが、ものすごく重要だと思っているんです。IT革命で世の中に情報があふれ返るようになった時代は、マスを動かすことが求められていると思いますので。

山口 今はテロや格差など、世界のいろいろなところで、見過ごすことのできない問題も多発しています。可士和さんは本の中で、「世の中のあらゆる問題は、コミュニケーションの断絶が根っこにあるのではないか」という仮説を立てておられます。断絶が起こっているところを「課題」ととらえて、じゃあ、どうやったら情報はスムーズに流れるのか、互いのイメージの齟齬は補正できるのか、と問いを定義し直し、そこから、人対人、人対モノのコミュニケーションを再構築しようとしている。ご本を読んで、そこのところにも興味を惹かれました。

佐藤 そのように読んでいただけて、うれしいですね。

山口 そんな可士和さんは、自発的に何かをポンとつくりたくなる、みたいな衝動はありませんか。クライアントから依頼されたわけではないけれど、これをやってみたい、というような。

佐藤 学生のころはそういうものだらけでした。だから絵を描いたり、パンクバンドを組んだり、いろいろやっていました。

山口 パンクミュージックは、ソリューションとしては、あまりないと思いますが(笑)。

佐藤 学生時代を振り返ると、ソリューション云々なんて、自分でもよく分かっていなかったですね。ただその後、社会に出て仕事をしていく中で、クリエイティブの力をうまく使うと役に立つ、ということが分かっていった。そのベースに、学生時代に手当たり次第、やりたいことをやっていった経験があります。今、山口さんが言ってくださったように、今後はもう一回りして、クライアントから頼まれた仕事と、自発的に考えたことがもっと融合していくといいだろうな、と思っているところです。

山口 リバランス、リミックスのフェイズですね。

佐藤 現代のビジネスパーソンは、経営者も含めて、「アート」「サイエンス」「クラフト」のバランスをとる能力が大切だと、山口さんは提唱しておられますが、僕もそこは大変意識していて。というのは、AIがクローズアップされることで、従来型の解決というものが、どんどん価値を失っているからなんです。

山口 その通りですね。前回も話しましたが、広告会社のキャンペーンでいうと、コピーライターにキャッチコピーを200本書かせて、クリエイティブ・ディレクターがそこから一番いいものを選ぶ、みたいな作業は、AIでもできるようになる。AIに過去のヒットキャンペーンのデータをインプットして、一番ヒット率の高い言葉の組み合わせを選べばいい、という話ですから。

佐藤 だからこそ、最終的にビッグデータにならないような人間の衝動とか、自分はこれをやりたいんです、といった熱量がすごく大事になっていく。僕は、その感覚が鈍くならないように、ということは強く意識していますね。

山口 「勘」と「感」が大事、と本にも書かれています。AIによるクリエイティブの効率化を逆にいうと、衝動や熱量のない仕事は、ことごとく機械にリプレースされちゃいますよ、ということですよね。

佐藤 広告も間違いなくそっちの方向に行くと思いますし、AIだってそこそこ機能すると思うんです。ただ人間の感情は、すごく複雑でしょう。たとえば「嫌い」といっても、その中に「好き」が入っているとか、商品アンケートで「これは好きですか」と聞かれた時に、「好き」と書く自分が嫌だから「嫌い」と書く、みたいな、表面だけでは酌み取れないノイズが、まだまだいっぱいあると思うんです。

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プロフィール

佐藤可士和×山口周

佐藤可士和(さとう・かしわ)

クリエイティブディレクター。「SAMURAI」代表。1965年東京都生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、博報堂を経て2000年に独立。慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授。多摩美術大学客員教授。ベストセラー『佐藤可士和の超整理術』(日経ビジネス人文庫)など著書多数。2019年4月に集英社新書より、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(慶應SFC)における人気授業をまとめた『世界が変わる「視点」の見つけ方 未踏領域のデザイン戦略』を上梓。

 

山口周(やまぐち・しゅう)

戦略コンサルタント。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業。同大学院文学研究科修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、コーンフェリーなどを経て、現在はフリーランス。著書に『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『世界の「エリート」はなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『劣化するオッサン社会の処方箋』『仕事選びのアートとサイエンス 不確実な時代の天職探し』(以上、光文社新書)など。

 
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