対談

コロナ禍で激変した世界秩序はどこへ向かうのか

東アジアから未来を遠望する【中編】

内田樹×姜尚中

「間違った列車」に乗っても「正しい目的地」に行ける

 内田さんは今、「迂遠」とおっしゃったけれども、『愛の不時着』の第5話で、主人公ふたりが乗った電車が遅れたとき、ヒロインのユン・セリが「間違った電車が時には正しい目的地に連ぶ」というインドのことわざのことを話すでしょう?

内田 ありましたね!

 あのドラマのラストで、パラグライダーでアルプスに降り立ったセリに、どのようにしてスイスにたどり着いたのか聞かれたリ・ジョンヒョクが、「列車を乗り間違えたらここ(ユン・セリのいるところ)に着いたんだよ」と言いますよね。

あの場面を観ながら、約30年にわたる試行錯誤を続けてきた南北関係も正しい目的地に向かって行っているのではないかと思ったんです。

よく「姜さん、統一なんてそんなにすぐにできるもんじゃないですよ」と言われたりするんですけれども、僕だってそんなことは夢にも思っていません。

おそらく、統一には何十年もかかるでしょう。でも、そこに向けたプロセスは既に始まっているということは認識しておいた方がいいと思いますね。

内田 正しい目的地に向かうということでは、日朝関係でも同じことが言えますよね。

 その通りです。2002年の小泉訪朝から約20年が経過したというのに、拉致問題がなんの解決にも至っていないというのは、ふつうで言えば「大失敗」ですよ。

振り返ってみると、拉致問題は政権の支持率浮揚のカードとして扱われてきたのではないかと思わざるを得ないところがたくさんあって、やはり、これまで「間違った列車」ばかりに乗ってきたということなのだと思います。

それでも正しい目的地に着くためには、先ほどの相手のオプションを増やすという外交がリアリズムだと思います。でも、日本のリアリストは「世の中、そんなに甘くない」と言いがちですね。

内田 あの人たちは、リアリストじゃなくて、むしろ彼らが「リアル」だと思い込んでいるファンタジーを生きているんだと思います。ただ、今の世の中ではああいうシンプルなファンタジーを語る人の方がわかりやすいから、人気はある。

僕たちが今しているような話をすると、「もういいよ、何を言ってるかわからないから、もっとやさしく話せ」と言われてしまう。これでも、ずいぶんやさしく話してるつもりなんだけど(笑)。

思想家・内田樹氏(撮影:三好妙心)

 

文責:加藤裕子

後編に続く

 

 内田樹 編『街場の日韓論』(晶文社)

 

姜尚中『朝鮮半島と日本の未来』(集英社新書)

 

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プロフィール

内田樹×姜尚中

 

内田樹(うちだ たつる)

1950年東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。著書に『寝ながら学べる構造主義』(文春新書)『日本辺境論』(新潮新書)『街場の天皇論』(東洋経済新報社)など。共著に『世界「最終」戦争論  近代の終焉を超えて』『アジア辺境論  これが日本の生きる道』(いずれも集英社新書・姜尚中氏との共著)等多数。

 

姜尚中(カン サンジュン)

1950年熊本県生まれ。政治学者。東京大学名誉教授。熊本県立劇場館長・鎮西学院学院長。専門は政治学政治思想史。著書は累計100万部を突破したベストセラー『悩む力』をはじめ、『続・悩む力』『心の力』『悪の力』『母の教え  10年後の「悩む力」』(いずれも集英社新書)など多数。小説作品に『母ーオモニ』『心』がある。

 
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