対談

いま貧困問題は何を伝えるべきか~地方都市×シングルマザー part.2~

坂爪真吾×湯浅誠

坂爪真吾

湯浅 私たちの団体も業務委託の人が多いのは、別のNPOに関わったり自分でマネジメントして仕事をしている人が多いからです。しかしそこだけ見ていても、世の中の雇用問題を解決できるわけではありません。かといってアクティブラーニングを充実させて、社会的起業家を輩出できるプロセスを今の日本が作れるかというと、できるのかという疑問がわきますよね。

坂爪 短期的には難しいですよね。

湯浅 全員が全員ではないでしょうけど、日本は高収入高支出体質だったと思うんです。年功序列が典型で、子どもが育つにつれ経費がかかってくる。子育てと住宅と教育は自己負担っていうのは海外からは驚かれるけれど、日本人にとってはスタンダードですよね。だから子供が大学生になる頃に収入のピークが来るよう、逆算して結婚する人生が当たり前だった。

 しかしそれが崩れたから色々な問題が起きているわけですが、再び高収入高支出の、右肩あがりの賃金体系を復活させようというのは現実的ではないと思う。

坂爪 そうですよね。

湯浅 ではどういう解決策があると言えば、中収入中支出の社会作りだと思うんです。非正規でも夫婦共稼ぎで年収400万、これで子供が希望すれば大学を卒業できる社会構造にしようという以外に、なかなか解決策は見いだせないと言ってきました。そうすると子育てと教育と住宅の自己負担をどうするか。だから教育無償化の推進を歓迎してきたし、自治体の医療費無償化とか子育て支援の充実も歓迎してきました。

 これからの目指すべき方向は中支出生活だと思っているので、それを目指してきた自治体が、私にとっては希望がある先進自治体だと思っていたけれど、先ほどの坂爪さんのお話しだと、それだけでは足りないということになりますね。

坂爪 養育費をもらっていないシングルマザーの多くは、自分から元夫との関係を切ってしまっている。一人で頑張ってしまう人が多い背景には、世代間連鎖=シングルマザーの母親もシングルマザーである、という現実があります。親が一人で子どもを育ててきた姿を見ているので、それが当たり前だと思ってしまう。

湯浅 気持ちと感覚としてはすごくわかる気がします。男に頼るとバカを見るから、養育費なんかあてにしないのが正しい選択で、自分のプライドも傷つかなくて済む、と考える。でもそれは「どうせもらえないだろう」という無意識の諦めもあるのではないかな。でも明石市が行っているような、養育費の立て替え事業のようなものが整備されていったら(参考:https://www.city.akashi.lg.jp/seisaku/soudan_shitsu/kodomo-kyoiku/youikushien/documents/gaiyo_yoikuhipilot.pdf)、変わらないでしょうか。

 たとえばホームレスの人たちも、路上から出るルートが自分の手に届くところにあると思えないうちは、「俺はこのままでいいんだ」などと言ってしまう。でもルートが分かれば、路上生活を辞める人もいる。性風俗シングルマザーも、制度的なものが整えば気持ちが変わっていくということはないでしょうか?

坂爪 昨年、未婚のひとり親の寡婦控除が拡充されたので、そうした改革がこの先もっと広がっていけば、彼女たちの意識も変わっていくかもしれません。

湯浅 本人たちの行動の変化に結び付くのは、どれぐらい先なんでしょうね。

坂爪 5年後か10年後か……。この先は良い方向にはいくと思うんですけど。

湯浅 そのあたりは楽観されてます?

坂爪 自分としては、風テラスのような活動を続けることで当事者とのつながりが強まり、支援者や協力者も増えていき、社会的な理解が広まっていけば、良い方向に行くのではと楽観してます。甘いかもしれないですが。

湯浅 そうであってほしいですね。

 

皆が地続きで、遠い世界の遠い人の話ではない

坂爪 湯浅さんが2006年に「貧困はある」と主張されてから15年近く経った今、世間の認識は大きく変わったと思います。もう「日本に貧困なんてない」という人は、ほとんどいない。

 一方で、「誰が貧困なのか」「それは本当に貧困と呼べるのか」といった貧困の定義をめぐる議論や、その背景にある自己責任論は、まだまだ根強く残っている状態だと思います。

湯浅 生死の境にいるような絶対的貧困(赤信号)ではなく、人並みの暮らしができないという相対的貧困(黄信号)が可視化されないという課題を、私はずっと抱えています。4年ぐらい前にNHKが取り上げた「貧困高校生」が、スマホを持っていたりアニメグッズを集めていたことで、「どこが貧困なのか」と厳しく指弾されましたよね。多くの人が貧困と聞くと「生きるか死ぬか」の話だと思っていて、彼女のように飢えてはいないけれど、生活に余裕がない黄信号の人は、政府の統計上は貧困率に入るのに、社会的には認められない。

「貧困などない」と言われていた頃、私はあえて厳しい赤信号の事例ばかりを出して、なんとか世の中に貧困の存在を認めてもらおうとしてきましたが、結果として黄信号が貧困と認められない状態は今でも続いている。その点、私にも責任があります。その結果、空腹のあまりティッシュをなめるような、極端な赤信号ばかりが貧困認定されるようになってしまった。こども食堂に関わっている理由の一つは、そこにあります。

坂爪 こども食堂は「黄信号の人が青信号のような顔をしていける場所」だと、湯浅さんはおっしゃっておられましたよね。

湯浅 こども食堂は「貧困の子どもたちにあなたは何かできますか?」と聞くと「専門家ではないので、わからない」としり込みしてしまうような、地域の一般の女性達が担い手です。彼女たちの中には「地域のにぎわいを作りたい」という思いから参加していて、黄信号の人たちのために参加しているつもりがないという人もいると思いますが、結果的に接点をもって対応しています。こども食堂は、貧困問題にたずさわる人たちのすそ野を大きく広げる取組みでもあるんです。

坂爪 すごいことですよね。

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性風俗シングルマザー

プロフィール

坂爪真吾

坂爪真吾(さかつめ・しんご)

1981年、新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス」などで現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰。著書に『はじめての不倫学』『性風俗のいびつな現場』『セックスと障害者』『セックスと超高齢社会』『「身体を売る彼女たち」の事情』など。最新刊は『性風俗シングルマザー 地方都市における女性と子どもの貧困』。

 

湯浅誠

湯浅誠(ゆあさ・まこと)

1969年東京都生まれ。日本の貧困問題に携わる。1990年代よりホームレス支援等に従事し、2009年から足掛け3年間、内閣府参与に就任。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに日本社会における民主主義の成熟が重要と痛感する。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授の他、NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長など。著書に『子どもが増えた! 人口増・税収増の自治体経営』(泉房穂氏との共著)、『「なんとかする」子どもの貧困』、『反貧困』(第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)など多数。

 
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