著者インタビュー

現代にも生きている「縄文の思想」【後編】

『縄文の思想』著者・瀬川拓郎先生インタビュー

瀬川拓郎
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縄文時代における遠隔地同士のダイナミックな交流や、「海洋」を舞台にした古代人の広範なネットワークを見出した書籍を次々と発表し、注目を集めている瀬川拓郎・札幌大学教授。

その研究の原点はどこにあるのか。そして、最新刊である『縄文の思想』(講談社現代新書)に籠められた想いとは?

話題の考古学者に迫るインタビュー、後編をお届けしたい。

 

——前編では、先生のご経歴について伺いました。後編ではいよいよ、新刊である『縄文の思想』を扱いたいと思います。この本をご執筆されたきっかけについて教えて戴けますか。

瀬川:これまでの研究では、ずっと「アイヌと縄文とのつながり」を調べてみたいなと思っていました。

アイヌというのは、なかなかそれまで考古学的に掘り下げられず、どのように解釈すべきわからないという存在でした。生物学的に見たアイヌが縄文人と遺伝子的に繋がっていて、骨の形質も似ているので、どこかで連続性があるのではないか、ということがわかってきたのが最近です。

しかし、文化だけに着目すると、縄文文化とその2000年後のアイヌ文化は、全然違うものです。両者とも、狩猟・漁労を行っているので、確かに生活面での類似性はありますが、使っている道具だとか家といったものは、全部異なっているわけです。縄文との直接的な繋がりを示すものなんて、見当もつかなかった。物質的にアイヌと縄文を直に結び付けるのは至難の業でした。

だから、そこで視点を一回大きく変えてみました。土器や石器ではなくて、遺跡の立地から見た環境との交わりだとか、そういった観点からアプローチをしていくと、アイヌと縄文との関係性や変化がうまく辿れるんじゃないかと考えました。最初に博士論文で書いたのは、まさにそういう「エコシステム」の問題です。

さてさて、アイヌと縄文とのつながりは、どうなっているのか。何が変化し、何が変わらないまま残っているのか。どこかで絶対に繋がりがあると思うけれど、それをどうやって論証すればいいんだろう。そういうテーマについて、いつか文章で書いてみたいなと思っていました。

そんな問題関心のもとで、ある時たまたま『風土記』などの文献に目を通していたら、そこにはアイヌの伝説と内容的に重なるものがいくつもあって、「おやっ、これは何なんだろう?」 と思ったんですね。実はこの問題には、金田一京介など昔のアイヌ研究者の中で、若干触れていた人物もいるんですが、ほとんど掘り下げられていなかった領域です。

やがて、アイヌと共通する伝説を伝えていた人たちは海辺の人々であることもわかってきました。海辺の人々、特に家船(えぶね)漁民に代表される九州の西海岸の人々は、縄文的な文化や、縄文人の形質的特徴をかなりとどめていることが知られています。それと共通性を持っているならば、同様にアイヌもやっぱり縄文的な人々なんじゃないか。どうしてもっと掘り下げないんだろう。もっと真剣に取り組んでみたら、ひょっとしてとんでもないことが言えるかもしれないぞ、と考えたことが『縄文の思想』が生まれたきっかけです。

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プロフィール

瀬川拓郎

1958年生まれ。北海道札幌市出身。考古学者・アイヌ研究者。岡山大学法文学部史学科卒業。2006年、「擦文文化からアイヌ文化における交易適応の研究」で総合研究大学院大学より博士(文学)を取得。旭川市博物館館長を経て、2018年4月より札幌大学教授。主な著書に、第3回古代歴史文化賞を受賞した『アイヌ学入門』(講談社現代新書)をはじめ、『アイヌの歴史』『アイヌの世界』(ともに講談社選書メチエ)、『アイヌと縄文』(ちくま新書)など。

 
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