対談

この世の中は「巨大な劇場」!? 登山家・栗城史多氏の生き様が物語ること

『デス・ゾーン』文庫版刊行記念対談【前編】
金平茂紀×河野啓

金平 そういえば最近、僕が注目している番組があってね。TBSの若手が始めた『不夜城はなぜ回る』というの。ご存じですか?

河野 いえ、知らないです。

金平 『不夜城はなぜ回る』は、若い5年目ぐらいのディレクターが考えてつくっている。深夜12時過ぎとか2時、3時に煌々と明かりがついているところに突然訪ねていくんです。アポなしで「何やってるんですか?」と聞き歩く番組なんだけど。これは、面白い。

河野 へぇー。

金平 押しつけがましさはなく、淡々と自分でカメラ回して話を聞くんですよ。

ジャーナリスト・金平茂紀氏

河野 それは報道でつくっているんですか?

金平 いや、制作局。彼は報道に1年いて「お前は向いてないんじゃないの」って言われたとか。そういう若者がつくっているのが面白いです。それから、1967年につくられたTBSの『あなたは……』ってあったでしょう。

河野 はい。制作者の勉強会で観たことがあります。

金平 街頭で「あなたは……」とインタビューするだけのドキュメンタリー。67年に寺山修司と萩元晴彦、村木良彦がつくった。それを2022年にもう一回つくり出したんですよ。『日の丸 それは今なのかもしれない』というのが映画にもなりましたけど。街録(街頭録音)だけで、よくこれだけのものをつくるなと思うくらい、本当に面白い。

河野 へぇー、面白そうですね。街録はある意味、取材の基本ですよね。

金平 いま30歳前後の彼らが「ドキュメンタリーとはこういうものでございます」というのをぶっ壊していこうとしている。僕はテレビの文法からハミだすものが出てきたということに可能性を感じています。

 

聞き手・構成:朝山実

金平氏写真撮影:野﨑慧嗣

河野氏写真撮影:定久圭吾

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デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場

プロフィール

金平茂紀×河野啓

 

金平茂紀(かねひら しげのり)
1953年北海道生まれ。東京大学文学部卒業後、1977年にTBS入社。報道局社会部記者としてロッキード事件などを取材する。その後はモスクワ支局長、ワシントン支局長、「筑紫哲也NEWS23」編集長、報道局長、執行役員などを歴任。2010年より「報道特集」のメインキャスターを務める。著書は『テレビニュースは終わらない』(集英社)、『抗うニュースキャスター』(かもがわ出版)、『漂流キャスター日誌』(七ツ森書館)、『筑紫哲也『NEWS23』とその時代』(講談社)など多数。

河野啓(こうの さとし)
1963年愛媛県生まれ。北海道大学法学部卒業。1987年に北海道放送入社。ディレクターとして数々のドキュメンタリー、ドラマ、情報番組などを制作。高校中退者や不登校の生徒を受け入れる北星学園余市高校を取材したシリーズ番組(『学校とは何か?』〈放送文化基金賞本賞〉など)を担当した。著書に『北緯43度の雪 もうひとつの中国とオリンピック』(小学館、第18回小学館ノンフィクション大賞、第23回ミズノスポーツライター賞優秀賞)など。2020年に『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』で第18回開高健ノンフィクション賞を受賞。

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