鼎談

30年間行われてきた自衛隊PKOとは何だったのか?

ウクライナ戦争下の今だからこそ考えたい
布施祐仁×伊勢﨑賢治×渡邊隆

最初のカンボジアPKOでは事前に射撃訓練すらできなかった

布施 この本のために渡邊先生に取材させていただいて一番印象的だったのが、「派遣前に射撃訓練もできなかった」というお話でした。

布施祐仁著『自衛隊海外派遣 隠された「戦地」の現実』(集英社新書)

当時の宮澤喜一総理の説明などを見ても、「PKOというのはあくまでも平和維持の活動だ。国連がその権威によって停戦状態を維持する活動だから、PKO部隊が武器を使うような状況になれば『失敗』なんだ。だから、自衛隊が武器を使うような状況は想定されない」ということをかなり強調していたと思います。

国民には「武器を使うことは想定されない」と説明しているのに、派遣される部隊が射撃訓練を一生懸命やっていたら「やっぱりそういうリスクがあるのでは?」と突っ込まれる可能性があるということだったと思うのですが……。

渡邊 そうでしょうね。事前の訓練は2回ほどやりました。8月に派遣が決まって、もう9月には出発ですから、ほんのわずかな期間でしたが。とりあえず隊員には「これならできる」と自信をつけさせなきゃいけませんので。

しかしこの事前訓練では、2回とも射撃訓練は一切やっていません。もし我々が射撃訓練をやっていたら大変なことになっただろうと思います。ほとんどマスコミ衆目の中でやっていますので。

ただ、武装集団を派遣する場合には、射撃訓練や武器の取り扱い訓練は、もう絶対に必要だと思います。

伊勢﨑 ですよね。東ティモールの国連PKOでは、文民警察官も、そしてセキュリティ・オフィサーと呼ばれる保安担当の文民職員も短銃を携帯し、PKO部隊の基地の中に設けられたシューティング・レンジ(射撃場)で定期的な訓練が義務付けられていました。

これは、正当防衛のつもりで撃ったら間違っていましたという、いわゆる「誤想防衛」を予防するためにも必要ですよね。

渡邊 はい。そして、イラクに派遣される前は、実はビックリするぐらい撃っています。なぜ撃っているかというと、武器を取り扱うことについて、隊員が絶対的な自信を持てるようになるからです。「あっ、これで俺はなんとかなる」と。

言い方は悪いですが「当たらないように撃つ」というのも、すごく重要な射撃技術ですから。そういう自信を隊員に付与させることが、イラク派遣の場合には必要だった。もちろんカンボジアでも必要でしたが、当時は、とてもそんなことができるような状態ではありませんでした。

――自衛隊の最初のPKOだったカンボジア派遣の前とは違って、イラク派遣の前には実弾射撃訓練をたくさん行うことができた?

渡邊 はい。皆さんビックリするんですが、自衛隊員が1年間に撃つ射撃の弾数って、実は非常に少ないんですよ。平均して100発を超えるか超えないかぐらいでした。今はどうなっているかわかりませんが……。ただイラク派遣の前は何百発も撃ったと思います。

ご存じかもしれませんが、自衛隊って実弾射撃訓練の時は、(やつ)(きようを100%拾って回収しなきゃいけないんです。だから隊員は、当たったかどうかよりも、自分の薬莢がどこに飛んだかを気にするわけです。本末転倒ですが(苦笑)。

ただ、イラク派遣の前には「もう())を一切気にするな」と言って。本当に射撃に自信がつくまでしっかり撃たせてから送り出しています。

(後編に続く)

 

※本記事は2022年8月9日(火)に週プレNEWSで公開された記事「ウクライナ戦争下の今だからこそ考えたい 30年間行われてきた自衛隊PKOとは何だったのか? 伊勢﨑賢治氏×布施祐仁氏×渡邊隆氏鼎談」を転載したものです。

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プロフィール

布施祐仁

1976年、東京都生まれ。ジャーナリスト。『ルポ イチエフ 福島第一原発レベル7の現場』(岩波書店)で平和・協同ジャーナリスト基金賞、日本ジャーナリスト会議によるJCJ賞を受賞。三浦英之氏との共著『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』(集英社)で石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞を受賞。著書に『日米密約 裁かれない米兵犯罪』(岩波書店)、『経済的徴兵制』(集英社新書)、共著に伊勢﨑賢治氏との『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』(集英社クリエイティブ)等多数。

伊勢﨑賢治

1957年、東京都生まれ。東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。インド留学中、スラム住民の居住権運動にかかわり、国際NGOでアフリカの開発援助に従事。2000年より国連PKO幹部として、東ティモールで暫定行政府県知事、2001年よりシエラレオネで国連派遣団の武装解除部長を歴任。2003年からは、日本政府特別顧問としてアフガニスタンの武装解除を担う。著書に『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)、共著に『新・日米安保論』(集英社新書)、『主権なき平和国家』(集英社クリエイティブ)など多数。

渡邊隆

1954 年生まれ。国際地政学研究所(IGIJ)副理事。元陸将。1977年に防衛大学校(機械工学)卒業の後、米国陸軍大学国際協力課程へ留学。その後、陸上自衛隊幕僚監部装備計画課長、第一次カンボジア派遣施設大隊長、陸上自衛隊幹部候補生学校長、第一師団長、統合幕僚学校長、東北方面総監などを歴任。

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30年間行われてきた自衛隊PKOとは何だったのか?