――本書に登場する中途障害者の方々は、目が見えなくなったり、耳が聞こえなくなったり、手や足を失ったりと、たいへんつらい経験をなさった方々です。ところが、皆さん、ご自分の経験について実にオープンな感じでお話されているのが印象的でした。なにかインタビューの仕方にコツがあるのですか?
伊藤 たぶん、障害を持っている人からすると私は「何もできない人」だからです。私はお医者さんでもないし、福祉関係の専門知識があるわけでもないし、はっきり言って何もしてくれない人なわけです(笑)。だからこそ、ふつうの関係でかかわれるのかもしれませんね。
――伊藤さんの質問の仕方も、軽くツッコミを入れたり、遠慮のない友だち同士の会話のように感じられるときもあります。
伊藤 私には「共感的な態度が必ずしもよいとは限らない」という感覚があります。どこか距離のある第三者的な視点で、「それってこういうことなの」と尋ねる方が、当事者にとっても楽なのかもしれません。
ふつうの関係とは、二人称的な「寄り添う」ではなくて、三人称的なかかわり方です。その人のことを見ている時に、別のものも見ながらその人を見ている。「それってあっちでこういう話があったけど、そういうこと?」みたいに、オープンに話します。とりあえず、その人と会ったところから、「どうやったら、この場でこの人のことがわかるのか」みたいな感じで共通言語をつくり出していくようにしています。
――ある種の翻訳者のような役割ですね。
伊藤 できるだけ強引な解釈をしないように、とくに今回は「もう一切分析しません」くらいの感じで、うかがったお話をなるべくそのまま書こうとしました。
プロフィール
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。専門は美学、現代アート。著書に『ヴァレリーの芸術哲学、あるいは身体の解剖』(水声社)、『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社)、『目の見えないアスリートの身体論』(潮出版社)、『どもる体』(医学書院)などがある。最新著は『記憶する体』(春秋社)。
最新研究:「見えないスポーツ図鑑」 https://mienaisports.com/