対談

栗山英樹×佐山和夫 野球は「7回制」になる?

WBC優勝監督と殿堂入り作家が語り合う「野球のSDGs」後編

「オレたちの時代は9回でよかったなあ」って言ってるかもしれない

佐山 私だって、本当を言えば「野球は9回」と思っていたわけですよ。今はもう違います。野球は常に変わっていくのだと思っています。

栗山 先生が「7回でいい」って言うのだから、相当いい意見だと思いますよ。今までの先生だったら、絶対、「野球は9回じゃなきゃダメだ」って言いそうですもん(笑)。

佐山 いや、栗山さん。今こんなことを言っていますが、わかりませんよ。何年か経ったら、案外、野球とは7回のスポーツになっているかもしれませんよ。小学生の野球は今もう6回ですし。

栗山 ホントですね。これはもう、何年後かに絶対、7回野球になってますね、先生。たぶん、僕らが死ぬころには、「オレたちの時代は9回でよかったなあ」って言ってるかもしれない(笑)。

佐山 ボールカウントのコールを国際式に改めるときだって、そうでした。1997年の時点で、誰がいったい、旧来の日本式コール(SBO)が国際式(BSO)に改められることを予想していたでしょう。みんな反対でした。その年から日本高野連では改訂を始めましたが、広くそうなるには13年かかりました。事務長だった田名部和裕さんのご苦心も大変だったろうと思います。でも、今はすべてそうなっているのですからね。

栗山 カウントのコールについては、当時、日本式のままでいいのでは、と思ってましたが、今ではもう国際式が当たり前ですものね。でも、7回の野球については、試合が早く終わるのが当たり前とはならないような気もします。たぶん、7回の野球になったとして、それでも、長い試合は長くても面白いんだと思いますね。 

佐山 栗山さんがそうおっしゃる気持ちもわかります。野球を7回にしてしまったら、野球場が本来持っていた「都会のオアシス」という印象が消えてしまう恐れがありますね。慌ただしい日常、いつも時間に追われているギリギリの生活感の中で、ふと野球場へ入ったときのあのホッとする気持ち。ボールを吸い込むグラブの音、それに球を打つバットの快音が加わって、それだけでのんびりした気分を味わえる。「野球っていいな」という思いが胸を満たす。時間的にも、空間的にも、制限を持たないベースボールの特質を、ますます珍重したくなるのは確かです。その特質は、できる限り残したい。

1936年生まれ。『史上最高の投手はだれか』『ベースボールと日本野球』『明治五年のプレーボール』『古式野球:大リーグへの反論』など著書多数。2021年に野球殿堂表彰者(特別表彰部門)に選出された。

栗山 もちろん、僕も野球の特質は大事にしたいです。それと、ベンチにいる感覚で観るのもいいと思うんです。

佐山 確かに、監督になったつもりで観れば、野球は長くても面白いですよね。ただ、今はゲームの時間を短縮しようという動きが大前提。野球の特質を残したい、という私の願望にも、熱意の込もった同意を得られるのは、アメリカの友人でもごく稀なんです。

 それでも、7回への短縮に反対する友人がいないわけではありません。たいてい、相当な年配者で、私と同年代でしたから、反対する理由もよくわかるものでした。曰く、「過去の記録との比較をどうするのか」、「時空を超えて対比する楽しみは、もはやなくなるのか」と。確かに、一理ある。しかしながら、ベースボールはその対比のためにあるのではないし、歴史の正常なつながりは、薬物不正使用を始めたあの時代であっさり消えているのではないでしょうか。

栗山 そうですね。薬物不正使用以前と以後と、時代を分けちゃえばいい。

佐山 時代のことを放って、数字だけで比べられないですからね。

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