対談

栗山英樹×佐山和夫 野球は「7回制」になる?

WBC優勝監督と殿堂入り作家が語り合う「野球のSDGs」後編

野球にも「判定勝ち」を導入する?

佐山 また、時間の短縮といえば、タイブレーク(*あらかじめ走者ありの状態から攻撃を開始する。規定は各カテゴリーにより異なる)ですが、ほかにも、ゲームをショートカットするために採用されている方法がありますね。例えば、7回制の青少年野球の試合では、同点で決着がつかなくなると、チームで随一の強打者に自軍の投手が10球を投じて、ホームランの数を競う、ということをやっています。ゲームを早く終わらせるためのホームラン競争ですね。

栗山 そうか、何本ホームランを打てるかで試合の決着をつけるわけですね。そういう決め方も、ありっちゃありですよね。面白いっちゃ面白い。

佐山 選手負担の限界だと認めながらも、そこでゲームを終わらせない点では、タイブレークと同じかもしれませんが。

栗山 アメリカのタイブレークって、ノーアウト、ランナー二塁から始まるんですが、それだと全然、点が入らない。ずっと続きますもんね。

佐山 これはあくまで私個人の意見ですが、高校生のゲームの場合、タイブレークという方法は、勝敗に決着を与える最善の方法だとは思いません。「もうこれ以上は選手たちの負担が大き過ぎる」というのなら、そこでゲームを止めるのが最善ではないでしょうか。健康面のことを考えて、もうそれ以上のゲーム続行は見るに忍びないというのなら、ゲームを止めるしかないはずです。さらに厳しい追加イニングを導入するというのは、矛盾していませんか。その時点でゲームを止めても、どちらが優勢なのか、識別できるのではないか。ラグビーのワールドカップでも、トライ数を勝ち点に加算しているように……。

栗山 同点のなり方がどうだったか、試合内容、成績で判断するような決め方ですかね。

佐山 ボクシングの判定に似ていなくもありません。出塁数の多いほうで決めたり、フォアボールの数で決めたりするほうが、納得は得られるのではないでしょうか。少なくとも、ゲームを続行させて、さらに大きな精神的圧迫と肉体的負担を強いるよりはいいと思いますよ。

栗山 うーん。でも、それはある意味、野球の教育にもなるかもしれないですね。ヒット1本打たれるよりもフォアボールひとつ出すほうがダメだ、という差をつけながら、価値観みたいなものも伝えられますし──。なるほど、野球の判定勝ち。先生、さすがですね(笑)。野球もそうなるかあ。

佐山 試合時間の短縮から話が飛んでしまいましたが、メジャー・リーグでピッチクロック(*投手が捕手の返球を受け取ってから、走者がいない場合は15秒、走者がいる場合は18秒以内に投球動作に入らなくてはならない。違反すると自動的に1ボール追加)を始めましたね。

栗山 あれは最初、どうせすぐなくなるよ、と思ったら、メジャーの選手たちは7割方が「OK」だそうで。だから1回やってみる、っていう作業は大事だと思いました。

佐山 そう。アメリカ人は理屈言うけど、やるときはやる。ただ、アメリカ野球学会では「ピッチクロックで投球の時間を狭めるよりも、もっとほかの無駄な時間のほうを削れ」という意見も出てるんですよ。チャンレジ(*ビデオ判定)の時間、監督・コーチがマウンドに行く時間……。

栗山 “野球をやってない時間”が長いですよね、野球って。

佐山 それから抗議の時間、ピッチャーの交代、打者が手袋をはめ直す時間などなど。それらを合計すると、1試合で17分ぐらいらしい。それをいちいち計った人がいるんです。そこがまた野球学会の面白いところだけど。

栗山 でも、先生、17分ぐらいなんですか。それで30分短縮とか、40分、1時間短縮にはならないわけですね。

佐山 それはならない。私の感じとしては、17分ぐらいなら、残しといてくれよと思いますよ。「それらを含めての野球じゃないか」とも言える。それらを省いて得られる利益よりも、失うもののほうが多いのでは?

栗山 そうですね。野球をやってない時間も野球ですね、やっぱり。

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