「ワンベースごとに1点」とは?
佐山 せいぜい無駄な時間は省くとして、ゲームの進め方には、まだまだ議論の余地はありそうですよ。そんなことを言うのも、じつは私、何年か前に、イギリスのリバプールで彼らの野球を見たことが影響しているのだと思います。ウエールズ対イングランドの「第87回の国際試合」とのことでしたが、これがとても面白かった。ゲームのルールというのが「ワンベースごとに1点」というものでしたから。当然ながら、ものすごく点が入る。
栗山 ツーベースを打ったら2点、ということですか?
佐山 そう、2点。盗塁したら1点。エラーであれ何であれ、とにかくベースを踏めば1点。私も最初、ワンベース1点というルールは何だ? と思っていたのですけれど、それはそれなりに理屈がある。聞いてみたら、「ベースボールって名前、見てくれ。ベース、ボールでしょ?」って言うんです(笑)。で、試合見てたらね、1回に何点も入るわけです。
栗山 もしそうだとするならば、とにかくランナーを前に進めておく野球になりますね。戦略上とは違う理由で、ツーアウト、ランナー二塁からの進塁打も意味があるとか。
佐山 そうそう、常に前の塁、前の塁。守るときは無駄な相手の進塁を止めなければならないけれど、攻めるときは全員が前へ、前へ。
栗山 ですね、動きは出ますよね。面白いなあ。いろいろ考えてるんですね、みんな。
佐山 考えているというか、そういうルールでやっていて100年以上も経ってるらしい。
栗山 はあー。やっぱり僕ら、いかに先入観にとらわれているかって感じます。自分自身、普段から「先入観にとらわれるな」って言ってるのに(笑)、野球ってこういうものだと思い込んでるんですね。
いろんな話をうかがいましたが、野球にはまだまだ考える余地があるし、変えていける可能性があることがよくわかりました。「二刀流」で満足してちゃいけないですね(笑)。
佐山 いや、大谷選手の二刀流はとても刺激的で、さまざまな考えを引き出す大きな起爆剤でした。これもまた栗山さんの大功績のひとつだし、何より、侍ジャパンのWBC優勝につながったのですから。幸いなことに、あの優勝のあと、日本では野球への関心が深まりました。それこそ、大谷選手が寄贈したグラブの効果もあったでしょう。
望むらくは、かつてのような草野球が国中で復活することですが、それには安全な広場の確保が先決です。行政の力を見せてほしいと思います。少年野球では、勝利主義より育成主義を貫いてほしいし、練習というものを最も楽しい時間にしてほしい。また、女子野球も盛んになってきましたから、これからも発展するでしょう。ニューヨークのセントラル・パークでよくやっている、女子を3人加えた「混合野球」も日本で広まるかもしれません。
栗山 広がりがあるといいですよね。それと、WBCで言えば、今まで日本の野球は選球から始まって、待球してピッチャーにボールを投げさせて、いいところでフォアボールを取りながら、という作戦しか勝ち方がなかったと思うんですね。でも、昨年のジャパンみたいな、翔平をはじめ村上(宗隆)、吉田(正尚)のようなタイプが揃うんだったら、最初から打っていく、最初から攻めていく野球でも勝てる可能性が出てきています。もちろん、細かい野球もやるんですけど、これから日本の野球がどこに行くのか、というのは非常に大事な要素という気がしますね。
佐山 そうなんです。栗山さん、これからですよ、本番は。最初に述べたように、ベースボールの人気はアメリカを筆頭に大きく衰退しつつあります。幸い、日本野球は健全性を保って成長しつつあり、ベースボールに本来の意義を再生させる役目をもおびてきています。野球というスポーツの価値の再興です。
ひとつの大きな夢をかなえた栗山さんには、次の夢として、ベースボール再建の大役が待ち受けています。そういう意味では、本当に好運なお方だと思いますよ。ひとつの大きな夢のあとに、前よりさらに意義深い役目が待っているのですから。
栗山さんお得意のキャッチフレーズは「夢は正夢」。大いに期待しています。
栗山 ありがとうございます。先生、あらためて野球は面白いですね。今日はめちゃくちゃ楽しかったです。