——大学時代に一度、西日本で生活されています。北海道に残るということは考えなかったのでしょうか。
瀬川 実は、北海道を出てみたかったんですよ。当時はとにかく、北海道的じゃないところに行ってみたかったんです。
北海道って、古いものが無いですよね。遡っても、せいぜい明治時代の建物が何棟か残っているくらい。明治期に開拓民が入ってきてつくられた街ばかりですから、要するに西部劇の街と同じです。
高校時代は日本史を選択していましたので、暗記をするわけですけど、教科書を見ていると、見たことのない用語がどんどん出て来るんですね。北海道にはない「古墳」だとか、「国府の跡」だとか。自分の知らないものが日本の歴史として書かれている。自分とは全く関係のない世界が日本史なのかという気持ちになって。そういう仕方で、強い違和感がどこかにずっとあったと思うんです。
それで、自分のアイデンティティ探しみたいな面もあるのかな。北海道の外の「日本史」を体験してみたいな、という気持ちが芽生えていました。
恩師の石附先生も、札幌から同志社に進学された経験がありました。それで、相談をしてみたら「やっぱり西日本に行ってみた方がいいよ」と言われまして。西日本といえば、弥生・古墳文化の本場ですよね。そういう全く違った環境の大学に行って、違ったことを勉強した方が、北海道の文化を相対化するには良いんじゃないか、ということで岡山大学に行くことに決めました。
ところが行ってみたら、空襲で一度焼かれちゃった街だったので、古いものはあまり残っていなかったんですね。それでも史跡はいくつもありましたので、刺激になりました。そもそも、気候・環境が北海道と全然違うということ自体が強烈なショックでした。その時に初めて、「ああ、北海道ってものすごく特異な場所なんだな」ということを感じました。
結果的に、岡山に行ってものすごく良かったんだと思います。ひとつには、岡山大学の考古学は「理論派」で有名で、今でもそういう伝統を受け継いでいます。ちょっと変わった特徴があるんですね。そういう環境に身を置いたことで、ただ物を探して歩くというだけではなくて、理論的なものの見方や議論の組み立て方を身に着けられたと思います。
プロフィール
1958年生まれ。北海道札幌市出身。考古学者・アイヌ研究者。岡山大学法文学部史学科卒業。2006年、「擦文文化からアイヌ文化における交易適応の研究」で総合研究大学院大学より博士(文学)を取得。旭川市博物館館長を経て、2018年4月より札幌大学教授。主な著書に、第3回古代歴史文化賞を受賞した『アイヌ学入門』(講談社現代新書)をはじめ、『アイヌの歴史』『アイヌの世界』(ともに講談社選書メチエ)、『アイヌと縄文』(ちくま新書)など。