対談

政治家が使う言葉のトリックの見抜き方

慰安婦問題、南京虐殺事件、そして、あいちトリエンナーレ事件…
山崎雅弘×望月衣塑子

望月 はい。そもそも中間報告で第三者系の調査委員会が発表した内容は、「電凸とか脅迫電話に対する対応というのをしっかりやれれば、やはり表現の自由は守られるべきであるから、再開をすべきだ」と、はっきりと表現の自由を守ろうということを伝える中間報告を出した。すると翌日、文化庁が「補助金の不交付を決定した」と発表しました。約1年前に決まっていた7800万円の交付金を不交付にすることが急遽決まった。交付を決定した委員へは、事後連絡という形で、です。

「なぜ中止したのですか」と文化庁の職員に質問しますと、何と「今回の事業を行うに当たって、この事業を行う妨げとなるようなことが起こりそうだということを事前に予見し、その可能性について、妨げが行われる後でなくその前に報告をしなかった、という手続きの不備があった」と(笑)。事前に起きる可能性を察知し、その予見可能性を報告しなかったということで、手続き上の不備だから、とペナルティーを科したのです。

あいちトリエンナーレって3年ごとにやっていますが「事前に予見可能性を報告しろ」とかいうことを、交付要項で求められ「どこかに記載しなさい」とか「口頭で説明しなさい」と求められたことは、今まで一切、取材した愛知県含め、26どの自治体もなかったのです。それから今回、トリエンナーレの「報道の不自由展・その後」の企画展は、わずか3日で中止に追い込まれたのですけれども、その直後、県の職員が、京都の文化庁職員に呼び出されたときも、「なぜ事前に予見し、その可能性を報告しなかったのだ」とは、一切質問されていないのです。ということは、文化庁は不交付にしたいがために、官僚の文書主義の原則から言えばありえない、全くそこにないような新たな条件を後づけで作って、「守られていない」としてペナルティーを科したわけです。

これに対し、愛知県の大村知事は、「事前に伝えられていないものに対して、後づけのペナルティーは認められない」として、今、国地方係争処理委員会に訴えを起こすということを表明しています。官僚の文書主義の原則からは考えられないようなことを文化庁が決めてしまった。

8月、展示の直後に河村さんが、先ほど言った「国民の心を踏みにじる行為だ」と批判し、その2日後に、菅官房長官が会見の場で「内容を精査し、慎重に検討していきたい」と、補助金不交付を匂わせるような発言をしています。この直後から、美術会やペンクラブなどが「表現の自由に政治が関与している」と厳しく批判していたのですが、当時大臣だった柴山議員は、中間報告が出された時点で関係者に「明日は大きな発表が出るから」などと語っていたとも聞きます。

私は萩生田さんが決めたのかなと一瞬思ったのですが、その後取材を重ねると、8月2日に菅氏がああいう発言をした時点ですでに、「補助金は出すな」という、いわゆる官邸、安倍首相側の意向というのが出ていた、という可能性が高いと思っています。いわゆる原理原則と全く違った政治的な介入によって、今回の不交付が決まってしまったのだろうと。

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