著者インタビュー

強い者も弱い者も生き残る、 それが「進化」

宮竹貴久・進化生態学者

宮竹貴久
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動けば危ない。でも、じっとしてると出会えない

─集英社新書『したがるオスと嫌がるメスの生物学』は、宮竹さんが文部科学省の助成を受けて率いる研究プロジェクトの話から始まります。

 生物の動きと適応度、つまり子孫の残しやすさについて、2014年から科学研究費をいただいて研究しています。

  もともとは20年も前、ある虫が刺激を受けて「死にまね」をするのに気付いたのが始まりでした。しばらくするとまた動き始めるんですが、この虫をたくさん集めて観察すると、個体によって死にまねする長さが違うんですね。そして、歩いているときや餌を食べているとき、またメスにアプローチ中のオスは、刺激を与えてもあまり死にまねしないことが分かりました。つまり、虫にも個性があり、また活動中の虫は「死にまねしている場合ではない」と考えられるわけです。

─そこから、生物の動きと生き残り戦略の関係という研究テーマが生まれたそうですね。
 自然界に、長時間死にまねをするものとそうでないものがいるからには、それぞれに「自分の生き残りやすさ」と「繁殖しやすさ」の武器があるはずなんです。それは何か?
 コクヌストモドキという、研究室でも飼いやすい昆虫を野外から採集して子を生ませ、成虫になって15日目のオスとメスを100匹ずつ選びます。それを1匹ずつ皿の上にのせて刺激を与え、動かなくなってから再び動き出すまでの時間をストップウォッチで測る。それを200回繰り返して、死にまねが最も短かったほうからオスとメスを各10匹、長かったほうから各10匹を選んでそれぞれ交尾させます。そこから生まれた子を同様にストップウォッチで……。

─気が遠くなりそうな作業です(笑)。
「育種」といいます。進化現象を研究室で再現するわけです。
 そうして育種したコクヌストモドキは、一方がピタッと数十分もフリーズする集団と、どれだけ刺激を与えても死にまねをせずに動き続ける集団に分かれました。で、彼らをそれぞれ天敵やメスと一緒にして観察した結果、フリーズする集団のオスは、敵に襲われにくい代わりにメスとの出会いがほとんどなかった。逆に、動き回る集団のオスは、メスとよく交尾できる代わりに天敵に襲われやすかったんです。
 現在は死にまねだけでなく生物の動きそのものに着目し、ある個体の活動性を支配する遺伝子は何か、動きと交尾の関係をゲノムレベルで解明しようとしています。

死んでいるゾウムシ(左)と死にまねするゾウムシ((右)

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プロフィール

宮竹貴久

みやたけ・たかひさ1962年大阪府生まれ。岡山大学大学院環境生命科学研究科教授。理学博士(九州大学大学院理学研究院生物学科)。ロンドン大学(UCL)生物学部客員研究員を経て現職。Society for the Study of Evolution, Animal Behavior Society終身会員。日本生態学会宮地賞、日本応用動物昆虫学会賞、日本動物行動学会日高賞など受賞。主な著書に『恋するオスが進化する』『「先送り」は生物学的に正しい』など。

 
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