時代はYoutube、ライバルは中田敦彦!
――鮫島さんは朝日新聞社に所属していた頃から個人での情報発信を積極的に行い、いまでは“SAMEJIMA TIMES”というウェブサイトを運営されていますね。
鮫島 高齢者層は別として、もう「NHKが言っているから」「朝日新聞が言っているから」という信用はだいぶ落ちてきています。発信者の顔が見えないと信用しづらくなっている。参考資料として複数の意見を比較しながらものを考えよう、という人も増えてきているし、この流れはますます強まってくると思います。
だから、結局は誰が責任を負うかという時にも、「朝日新聞が責任を負います」「NHKが責任を負います」という時代はもう終わりつつあって。「私が責任を負います」「私が説明します」という風に言わないと、みんな信用してくれないんですよね。
これは良いことだと思います。インターネット革命のおかげで情報も双方向になった。それに対して新聞やテレビというのは一方的に「これを読め」「これを観ろ」と押し付けていく旧時代の媒体です。もうそんな時代は終わっていて、誰もが発信できる環境になったので、テレビ・新聞は明らかに負けているんですよね。
僕もウェブサイトを運営しながら、最近はYoutubeに一番力を入れています。目標となるライバルは読売新聞や朝日新聞じゃなくて、中田敦彦だと思っていて。彼のチャンネル登録者数は朝日新聞の購読者よりも多いですから。
――もう新聞社はライバルではないと(笑)。
鮫島 いま僕のチャンネル登録者数が2万人ぐらいで、「中田敦彦のYoutube大学」は500万人近くだから、もうボロ負けなんだけど(笑)。まあ目標はあくまでも大きく、というね。
でも本当は文章を書くのが一番好きなので、動画も出しながら書いた記事の発信と両方やっていきたいなと思っています。
――SAMEJIMA TIMESはどういう読者が多いのでしょうか。
鮫島 結構色々ですね。僕の専門が政治報道だから、記事は政治がメインですけど、マスコミの裏話なんかも定期的に載せています。嬉しいのは、意外と海外の日本人が多いんですよ。ヨーロッパやアメリカ在住の読者が増えています。
海外で暮らす方は日本の情報を知りたがっている。でも、日本のマスコミ報道を見ても何が起こっているのか全然わからない。それで調べてSAMEJIMA TIMESにたどり着いてくれるらしいですね。
新聞記者の時は読者との直接のやり取りはほとんどなかったけど、SAMEJIMA TIMESには寄付をくれる方もいるし、意見を遠慮せずにガンガン言ってくれる人も多い。読者とのやり取りが普段からかなりあるんですよ。私も迷っている時は皆さんの意見を聞きながら考えを変えることも多いですね。
これこそが本当の双方向性だなと思っています。だから、忙しくても読者の意見だけは必ず自分で見るようにしています。新聞では全くできていなかったことですよね。朝日新聞社に電話したら「お客様コールセンター」に繋がって、その部署の人が電話で聞いて終わりですから。
それじゃやっぱりダメですよ。やっぱり書き手が自分で読者の声を聞かなきゃ。本当は編集局長がお客様コールセンターで応対しろよ、って話なんですよ。僕はいまそれを自分でやっていて、楽しいですよ。その代わり、朝日新聞時代よりも忙しいけどね。休みも無いし、ブラック企業になっているわけだけど(笑)。
自分が正しいと信じていることであれば、堂々とやっていけば良いわけで。信念を貫いていけば、批判する人もいるけど、応援してくれる読者もいっぱいいます。応援してくれる読者にちゃんと自分の信念をブレずに示し続けていれば、その人たちは離れないでしょうから。
それは日頃からやり取りをしていて信頼関係があるからこそ。それがある限りはあまり怖いものが無いので、楽しいんですよ。これが本当のジャーナリズムだと思います。
プロフィール
(さめじま ひろし)
ジャーナリスト。1971年生まれ。京都大学法学部卒業。佐藤幸治ゼミで憲法を学ぶ。1994年に朝日新聞社へ入社。つくば、水戸、浦和の各支局を経て、1999年から政治部に所属。菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら与野党政治家を幅広く担当し、2010年に39歳で政治部次長(デスク)に。2012年に調査報道に専従する特別報道部のデスクとなり、翌年「手抜き除染」報道で新聞協会賞を受賞。2014年に福島原発事故をめぐる「吉田調書」報道で解任される。2021年に退社してウェブメディア「SAMEJIMA TIMES」を創刊し、連日記事を無料公開している。