著者インタビュー

選挙報道はもっと面白くできる! “SAMEJIMA TIMES”の挑戦

『朝日新聞政治部』著者・鮫島浩氏インタビュー【後編】
鮫島浩

政治報道はもっと面白くできる!

――SAMEJIMA TIMESではれいわ新撰組支持を明確にしたうえで発信をされています。従来の新聞報道とはまったく違うスタンスですね。

鮫島 アメリカで言えば、例えば「ニューヨーク・タイムズ」紙は民主党支持を鮮明にして政治報道を行っています。欧米ではメディアが選挙前に支持政党を表明するのはそんなに珍しいことではありません。むしろ日本が異常なんです。

なぜ日本のメディアは「客観・中立」を旗印にしてきたのか。ただ単に文句を言われたりトラブルに巻き込まれたりしたくないという、ことなかれ主義でしかありません。そもそも「客観・中立」という看板自体が嘘にまみれています。「客観」なんてあるわけがないでしょう。何を取材して取り上げるか選択した時点で、すでに主観が入りこんでいるんだから。

わざわざ嘘をついて防波堤をつくるのは、争いごとや面倒に巻き込まれないようにしているだけです。そういう嘘つき選挙報道にずっと加担しきたことに、内部の人間として忸怩たる思いがあったんですよ。それでいて投票率が上がらないって嘆くけど、そりゃ選挙報道がつまらなければ上がらないのは当然であって。

なんでつまらないのかといえば、傍観的・解説的にものを言うからです。野球観戦の時に、野球に興味が無い人にいきなり客観・中立的に解説をしたって面白くもなんともないでしょう。例えば巨人・阪神戦を観ながら、「1球目、インサイドのシュートで体を起こしました。2球目は外角のスライダーで泳がせて三塁ゴロに……」なんていくら言っても、野球を知らない人からすると「うーん……なんなんだ?」としか思わない。

いまの選挙報道ではそういうことをやっているわけですよ。それなのに「政治に興味を持ちなさい」「若者が選挙に行かない」って、行くわけないじゃん。

――確かに、政治報道は「面白くない」というイメージがある気がします……。

鮫島 じゃあどうすれば面白くなるか。野球なら(ひい)()の球団とか選手ができて初めて応援に熱が入るんですよ。「巨人頑張れ」「阪神頑張れ」ってね。サッカーのワールドカップだって自分の国を応援するから興奮するわけでしょう。

政治も同じで、まずは贔屓の政治家とか政党ができたら興味を持つはずです。「山本太郎、ステキ!」とか。きっかけはかっこいいとかかわいいとか何でも構わないんですよ。応援し出して初めて、「なんでこの人、こういうことを言っているのかな」「この政策ってどういう意味かな」と興味が出てくる。好きな人がいるからこそ学ぼうと思うわけで。

まずは報じる側が立ち位置を鮮明にして、「俺はれいわを応援するぞ!」と発信する。「ジャーナリストなのに肩入れしやがって」と言われることもあるでしょう。それでも構いません。「山本太郎を応援します!」って言うだけでなんとなくちょっと面白いじゃん。なんでこの人、こんなことを言っているんだろう。なんでれいわ新撰組を支持するのか。気になりますよね。

それで興味を持ってくれた人はれいわのことを勉強し出すし、場合によっては共感してビラを配り出すかもしれない。そういう風にして初めて興味を持って、選挙に参加してくれるようになる。

家でテレビを観ているよりは、甲子園のスタンドに行って黄色いメガホンを振っていた方が面白いに決まっています。同じように、家でただ選挙報道を見ているよりは、街頭で一緒にビラを配ったりする方がきっと面白いはずです。

だから7月の参議院議員選挙では、実験も兼ねて自らの立ち位置を鮮明にして、「俺はれいわを応援します! みなさんも一緒に応援しましょう」と呼びかけてみました。理由を聞いて賛同してくれる人は一緒に応援してくれても良いし、おかしいと思う人は他の政党を支持してもらっても良い。その方が選挙を考えるにあたって材料提供としての意味があると思ったから。

――選挙報道としては挑戦的な試みですね。従来のマスメディアでは難しいかもしれません。

鮫島 新聞やテレビは腰が引けて絶対にできないでしょう。SAMEJIMA TIMESは個人運営の超・弱小メディアなので、大メディアが絶対に追いつけないことをやらなきゃいけませんから(笑)。

でも、ここにたぶんこれからのヒントがあるんだと思います。書き手のスタンスがはっきりしていた方がむしろフェアだと思いますし。

最近もれいわ新撰組とは関係のない、自民党や立憲民主党に関する記事をいくつも公開しているけど、読む人は「鮫島はれいわを支持している」とわかってくれていて良いんですよ。自分としてはちゃんとデータと論理に基づいて、説得力をもって書いたつもりだから。「こいつはこういう立場から見ているんだ」とわかる方が、読む側からしても安心でしょう。

別に僕の記事だけを読んで判断する必要はありません。あくまでも考える材料のひとつとして見てもらえれば本望です。

賛否の声はたくさん届いています。皆さんの評価をいただいたうえで、SAMEJIMA TIMESが一石を投じる形になって、政治報道のあり方をめぐる議論が広がっていき、新しいジャーナリズムの形を再建するための材料になれば良いなと考えています。

ジャーナリスト・鮫島浩氏

(文責:集英社新書編集部/撮影:野崎慧嗣)

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プロフィール

鮫島浩

(さめじま ひろし)

ジャーナリスト。1971年生まれ。京都大学法学部卒業。佐藤幸治ゼミで憲法を学ぶ。1994年に朝日新聞社へ入社。つくば、水戸、浦和の各支局を経て、1999年から政治部に所属。菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら与野党政治家を幅広く担当し、2010年に39歳で政治部次長(デスク)に。2012年に調査報道に専従する特別報道部のデスクとなり、翌年「手抜き除染」報道で新聞協会賞を受賞。2014年に福島原発事故をめぐる「吉田調書」報道で解任される。2021年に退社してウェブメディア「SAMEJIMA TIMES」を創刊し、連日記事を無料公開している。

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