著者インタビュー

「視点」の発見とは、見えていなかったものを見えるようにすること

佐藤可士和

デザインをする上で重要なのはリアリティー

── 初めての講義「防災」のテーマで、印象に残っていることはありますか。
「防災」はやはり大きなテーマだったので、12年、13年と2年続けて取り組みました。僕が驚いたのは、1年目と2年目で僕自身も含めて学生たちの中で震災に対するリアリティーがかなり変化していたことです。たった1年で、忘れていってるんです。1年目のときは、ついこの間あったことなので説明すらいらなかったのに、2年目になると感覚が普通の日常に戻ってしまって、「防災」というテーマについても深く考えることが難しくなっていた。
 それで、みんなで被災地に行ったんです。そこで被災者の方々と話して、僕がすごく印象的だったのは、「今一番何をしてほしいですか」と聞いたときに、「忘れないでほしい」という答えが返ってきたことです。ああ、震災からたった2年で被災者の方々はそんなことを感じているんだと、そこに気づかされ、それは大きな発見だったと思います。瓦礫を移動させるとか、支援物資を送るといったことだけが支援ではなくて、もっとマインドのことで被災地に対するソリューション(解決法)があるかもしれない。被災地以外に向けて「忘れないで」というメッセージをリマインドしていくことも、すごく大事なことなんだなと改めて気づかされましたね。
 船がぼんと打ちあげられていたり、まだまだ復興していない現場を見て、言葉にできない無力感を目の当たりにするという経験も、学生たちにとって非常に意味があったなと思います。ものを作っていく上で、僕が大事だなと思うのは、こうしたリアリティーです。要は他人事ではなく、いかに自分のこととして考えられるか。それができないと、いいアイデアなんて出ないし、発見もないんです。

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プロフィール

佐藤可士和

さとう・かしわ クリエイティブディレクター。1965年東京生まれ。多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン科卒業。博報堂を経て2000年「SAMURAI」設立。ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブン・ジャパン、今治タオルのブランド戦略のクリエイティブディレクション、ふじようちえん、カップヌードルミュージアムのトータルプロデュース、武田グローバル本社、日清食品関西工場の工場見学エリアの空間デザインなど、近年は大規模な建築プロジェクトにも多数従事している。著書に『佐藤可士和の超整理術』『佐藤可士和の打ち合わせ』等多数。慶應義塾大学特別招聘教授。

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