著者インタビュー

「視点」の発見とは、見えていなかったものを見えるようにすること

佐藤可士和
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「自分事化」できないといいアイデアは出ない

──「視点」を見つけるためには、まず「自分事化」することが大事だと、本書でも強調されていますね。
 今、それがどんどんできなくなっていますね。インターネットでのバーチャルコミュニケーションが増えるにしたがって、生身のリアリティーがどんどん薄らいでいっている。自分が一つ動画を投稿したことで、社会に対してどういう影響があるか、どれだけ人を傷つけるかとか、それが想像できずに、昨今のバイトの不適切な投稿事件をはじめ様々な問題が起きたりしている。自分の思っていることと、世間の感覚とのギャップがイメージできないのでしょう。バーチャルというのは便利な分、そういう恐さもある。だからこそ余計に生身のリアリティーが大事だなと思うんです。
── 自分事化するということについての、学生たちの反応はどうでした?
 そこにまず、みんなすごく悩みますよね。面白いなと思ったのは、「強靭健康社会」という、健康をテーマにした課題を出したときに、最初は全くアイデアが出ないんです。それはみんな若くて健康だから(笑)。我々ぐらいになると、どこが痛いとか、血糖値がどうとか、いろいろ気になるんですけど、彼らはまだ20歳前後なので、不健康ということを考えたこともないし、想像もできないんですよ。逆に、そういえば僕もそうだったよな、健康のことを考えるようになったのは40歳ぐらいかな、結婚してからかなとか、こちらの気づきにもなったりしました。
 そういうリアリティーのない課題でも彼らは考えて考えて、あるチームは肉体的な病気ではなく、精神的に不健康な状態に注目して、「心」の健康診断を行う〈健幸診断〉としてメンタルのデザインを提案してきました。またやはり健康には心身のバランスが大事だとして、会社や学校にいる時間を「UsTime」、自分のプライベートな時間を「MeTime」として、ワーク・ライフ・バランスを保つ提案をしたチームもあります。いずれも今を象徴している問題だと思いますし、健康とは何かという本質を突いていて感心しました。
──「無二の私の幸福」というテーマで、〈三分ヒーロー〉のコピーで、困ったことが起きたときにネットでヘルプを出し、近くにいる人が駆け付けるという「ヘルプシェア」のアイデアを出したチームがありました。「無二の私の幸福」が個の幸福にいくのではなく、互いに助けをシェアできてこその幸福というところに着地したアイデアは素晴らしいと思いました。
 ええ。人は助けてもらってばかりいると幸せになれないんですよね。逆に悪いなと恐縮してしまってね。こっちもお返しできていることで心があったかくなる。これもマインドの話です。じつはこのアイデアを出したチームには、車椅子の子がいたんです。その彼が一人いることで、みんないろんな場面で自分事化ができたのかもしれません。SFCのように比較的新しい学校でも、ドアが一方向にしか開かなくて、片側からは車椅子で入りにくいとか、そもそも取っ手に手が届かないとか、そういう途方に暮れちゃうようなことがあるんです。そこで現場視察で学校内を見て回り、やっぱりここは周囲の人の助けが必要だなというところから始まったわけです。それをヒントに「Uber」(一般人が自分の空き時間と自家用車を使って他人を運ぶ仕組み)のようなマッチングビジネスの仕組みを「助けるシェア」に応用するというアイデアを思い付いたのだと思います。

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プロフィール

佐藤可士和

さとう・かしわ クリエイティブディレクター。1965年東京生まれ。多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン科卒業。博報堂を経て2000年「SAMURAI」設立。ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブン・ジャパン、今治タオルのブランド戦略のクリエイティブディレクション、ふじようちえん、カップヌードルミュージアムのトータルプロデュース、武田グローバル本社、日清食品関西工場の工場見学エリアの空間デザインなど、近年は大規模な建築プロジェクトにも多数従事している。著書に『佐藤可士和の超整理術』『佐藤可士和の打ち合わせ』等多数。慶應義塾大学特別招聘教授。

 
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