プラスインタビュー

その場所には何があったのか―― 場所の記憶を掘り起こし、未来につなぐ建築 2

建築家・田根剛インタビュー

田根剛
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 DGT.は2012年に行われた新国立競技場のコンペに参加。その設計案は、緑の樹々で覆われた人工の小山の中心部にスタジアム全体を埋没させるというものだった。古代の古墳を思わせるそのコンセプトは、最終審査に残った設計案のなかでもひときわ異彩を放っていた。言うまでもなく古墳は古代の皇族や豪族の墳墓であり、それは国立競技場の所在地である神宮外苑が明治天皇を祀る明治神宮の外苑として整備されたという歴史と無関係ではあるまい。

「神宮の森には100年の歴史があります。鎮守の森である神宮内苑に対して外苑は文化、芸術、スポーツの振興の場としてつくられたわけですが、年月が経過するうちに場所の意味が失われてきていました。現在、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを契機にした再開発が計画されていますが、外苑の周囲には高層ビルが建ち、あのあたりの景観は一変してしまいます。そのなかで国立競技場だけは、これまでの100年と未来をつなげる建築であるべきだと考えました」

 

新国立競技場案『古墳スタジアム』

新国立競技場案『古墳スタジアム』  © image courtesy of DGT.

 

 ちなみにこのコンペで選ばれたザハ・ハディドの設計案は、地域性や歴史性をまったく無視したものだった。それはまさに世界中のどこにでも成立する「ザハ・ハディドの建築」であり、田根たちが構想した場所性に基づく建築とは対極的な設計案だった。

「通常、設計のプロセスのなかで検討される場所性というのは、立地条件の範疇を超えるものではありません。例えば敷地の形状や近隣の環境がどうなっているかを検討し、それを建物の設計に反映させる。これはごく一般的に行われていることです。けれども僕が考える場所性というのは、その場所が過去においてどうであったかという点です。それを建築として掘り起こすという試みは、これまであまり積極的には行われてこなかった気がしています」

 

次回は2月14日掲載予定です

構成・文 鈴木布美子

 

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プロフィール

田根剛

建築家。1979年東京生まれ。ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTSを設立、フランス・パリを拠点に活動。2006年にエストニア国立博物館の国際設計競技に優勝し、10年の歳月をかけて2016年秋に開館。また2012年の新国立競技場基本構想国際デザイン競技では『古墳スタジアム』がファイナリストに選ばれるなど国際的な注目を集める。場所の記憶から建築をつくる「Archaeology of the Future」をコンセプトに、現在ヨーロッパと日本を中心に世界各地で多数のプロジェクトが進行中。主な作品に『エストニア国立博物館』(2016年)、『A House for Oiso』(2015年)、『とらやパリ』(2015年)、『LIGHT is TIME 』(2014年)など。フランス文化庁新進建築家賞、フランス国外建築賞グランプリ、ミース・ファン・デル・ローエ欧州賞2017ノミネート、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞など多数受賞 。2012年よりコロンビア大学GSAPPで教鞭をとる。

 
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