プラスインタビュー

その場所には何があったのか―― 場所の記憶を掘り起こし、未来につなぐ建築 3

建築家・田根剛インタビュー

田根剛
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 田根はコンテンポラリーダンスの舞台美術の仕事も数多く手掛けている。金森穣が芸術監督を務め、新潟市民芸術文化会館を拠点とするダンスカンパニーNoismの舞台では、同カンパニーの第一作『SHIKAKU』以来これまで7作品も田根が舞台美術を担当している。

「舞台美術の仕事をやって発見したのは、『時間』と『空間』は切り離すことができないということです。近代建築は時間の概念よりも空間の概念に重きを置きましたが、舞台美術に関わって、このふたつが密接であることに改めて気付きました」

 2015年1月に山口情報芸術センター(YCAM)で発表された『Dividual Plays―身体の無意識とシステムとの対話』は、YCAMの研究開発チームとコンテンポラリーダンサーの安藤洋子が共同で進めるプロジェクトから生まれた作品だ。ステージ上のダンサーの動きをリアルタイムでデータ化し、スクリーン上の映像としてダンサーにフィードバックする。この作品は田根にとって、情報と環境の関係を深く考える契機となったという。

「YCAMの舞台はかなり実験的なものでした。この舞台ではダンサーが身体を動かすすべてのデータがコンピュータを通して、照明や映像、音声などにリアルタイムで変換再編されていきます。つまり身体の動きがデータとなり、それが別の形の情報に再編され、それらの情報が新しい環境をつくっていきます。そうした情報の大海のなかで「深み」や「強さ」をどうすればつくり出せるかを考えました」

 

『Noism - SHIKAKU』

『Noism – SHIKAKU』  © Kishin Shinoyama

 

 田根にとって建築とは、膨大な情報をひとつの具体的な建物に落とし込む作業でもある。場所という環境から読み取られた情報に建築という形を与え、再び環境の一部へと戻す。この循環的なプロセスに田根の建築の特色があると言える。

 田根が日本国内で手掛けた最初の住宅となったのが、2015年に竣工した「A House for Oiso」だ。敷地の形状に沿って1階となる4つの箱を配置し、その上に2階部分の家型のボリュームをのせる。1階は床を地面よりも掘り下げた竪穴住居を思わせる空間で、2階の寝室は空中に持ち上げられた高床住居的な空間となっている。田根は設計を始めるにあたって、大磯の歴史を考古学的な範囲にまで広げてリサーチを行った。その結果、大磯には5千年前の後期縄文時代から人間が居住しており、その後も古墳時代、奈良・平安時代、鎌倉時代を経て、近世から現代に至るまで人が住み続けていることが遺構などから確認できたという。そこから得たものを実際の設計プロセスに反映させた結果が、「A House for Oiso」なのだ。

「今積極的に取り組んでいるのは、設計における考古学的なアプローチです。ある場所に堆積した時間を考古学的に掘り下げていく。すると今まで知らなかった世界の断片がそこからどんどん出てくるわけです。それは敷地をただ見ているだけでは絶対に得られない情報です。建物のコンセプトを考える段階でこの考古学的なリサーチをかなり徹底的に行います。結果として、ある場所から過去に向かう考古学と、同じ場所から未来をつくる建築が繋がることができるのではないか。これが今、僕たちが取り組んでいる作業です」

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プロフィール

田根剛

建築家。1979年東京生まれ。ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTSを設立、フランス・パリを拠点に活動。2006年にエストニア国立博物館の国際設計競技に優勝し、10年の歳月をかけて2016年秋に開館。また2012年の新国立競技場基本構想国際デザイン競技では『古墳スタジアム』がファイナリストに選ばれるなど国際的な注目を集める。場所の記憶から建築をつくる「Archaeology of the Future」をコンセプトに、現在ヨーロッパと日本を中心に世界各地で多数のプロジェクトが進行中。主な作品に『エストニア国立博物館』(2016年)、『A House for Oiso』(2015年)、『とらやパリ』(2015年)、『LIGHT is TIME 』(2014年)など。フランス文化庁新進建築家賞、フランス国外建築賞グランプリ、ミース・ファン・デル・ローエ欧州賞2017ノミネート、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞など多数受賞 。2012年よりコロンビア大学GSAPPで教鞭をとる。

 
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