米朝首脳会談で高まる「軍事衝突」の可能性

米国ニュース解説「トランプ弾劾・解任への道」第1回
矢部武

 トランプ氏の衝動性については多くの精神科医らが懸念し、職務不能を理由に解任を求める動きも進んでいる。憲法修正第25条は、「大統領が身体的かつ精神的障害などを理由に職務遂行不能と判断されたら、副大統領が大統領職を引き継ぐ」と規定しているのだ。

 トランプ大統領の就任直後の2017年2月、35人の精神科医らがニューヨーク・タイムズ紙に、「トランプ氏の言動が示す重大な精神不安定性から、彼が大統領職を安全に務めるのは不可能だと信じる」と投稿し、大きな注目を集めた。そこで具体的に指摘されたのは、トランプ氏の異なる意見を受け入れる能力の欠如、他者への共感能力の欠如、衝動的な怒りの言動などである。
 その後、ジョンズ・ホプキンス医科大学で精神科臨床医として勤務したジョン・ガートナー氏らが、「トランプ大統領の危険性について多くの人に知ってもらうために発言するのは医師としての責任だ」として、「警告する義務の会」(DTW)を結成した。2018年3月現在、DTWには精神医療の専門家を中心に7万人を超える賛同の署名が集まっているという。

 ガートナー医師は私の取材に応じ、トランプ大統領の精神不安定性と核ボタンのリスクについて具体的に説明した。
「モラー特別検察官による追及が激しさを増し、トランプ氏のストレスはどんどん高まっているようです。精神的に追いつめられると、その状況を打破するために衝動的な行動に出るリスクなどは高まると思います。それによってすべての問題を一気に解決できると考えるからです。つまり、“無力な犠牲者”のような状態から“破壊的な征服者”のように自分を変えられると思うわけです」

 トランプ大統領がロシア疑惑などの捜査で追いつめられている状況を考えれば、その問題から国民やメディアの関心をそらすために北朝鮮からの首脳会談の要請を受け入れたということも考えられる。しかもそうすれば、トランプ氏は「北朝鮮に最大限の圧力をかけ続けたから、金委員長を交渉のテーブルにつかせることができた」と自らの外交姿勢を自慢することができる。しかし、北朝鮮に対する圧力が奏功したことは間違いないと思われるが、今回の米朝首脳会談への動きは韓国の文在寅大統領がイニシャティブをとって積極的に進めたものだ。「手柄」をすべて自分のものにしようとするのはトランプ氏のいつものパターンである。

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プロフィール

矢部武

矢部武(やべ たけし)

1954、埼玉県生まれ。国際ジャーナリスト。70年代半ばに渡米し、アームストロング大学で修士号取得。帰国後、ロサンゼルス・タイムズ東京支局記者を経てフリーに。銃社会、人種差別、麻薬など米深部に潜むテーマを描く一方、教育・社会問題などを比較文化的に分析。主な著書に『アメリカ白人が少数派になる日』(かもがわ出版)『大統領を裁く国 アメリカ トランプと米国民主主義の闘い』『携帯電磁波の人体影響』(集英社新書)、『アメリカ病』(新潮新書)、『人種差別の帝国』(光文社)『大麻解禁の真実』(宝島社)、『日本より幸せなアメリカの下流老人』(朝日新書)。

 

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